フィルム時代には、被写体ごとにそれに適したフィルムを選ぶことで、より被写体を引き立たせるという技法があった。例えば、フィルム時代から撮っている読者であれば、『ベルビア』などのフィルムを使ったというケースも多いのではないだろうか。また、フィルムは現像するときにもちょっとしたテクニックで独特の写真を作ることができた。
デジタル写真においても、RAWデータから現像するときには現像ソフトで写真を様々に加工して、このフィルムを選ぶような自分なりの表現技法を編み出しているカメラマンは多い。とはいえ、どうしても現像ソフトやレタッチソフトなどで、彩度やコントラストなどを調整する必要があるため、手間が掛かり、PCが苦手なユーザーには辛い作業だ。
しかし『K-5』はこのような画像仕上げをカメラ内でやってくれる『カスタムイメージ』機能が搭載されている。『カスタムイメージ』を使えばカメラの操作だけでさまざまな表現を作ることができる。
例えば、中井カメラマンは色の芯を残しつつ、彩度を下げることで写真全体をふんわりと柔らかく仕上げる"ほのか"というカスタムイメージをよく使用する。これによって、時には重々しい鉄道写真が優しく人当たりの良いものになる。
他にも『カスタムイメージ』には、映画でよく使われる技法で、彩度が低くローキーな渋い写真を作る"銀残し"など様々な表現方法が搭載されており、シーンや自分が表現したい技法に合わせて選ぶことができる。
『カスタムイメージ』がフィルムの選択であるならば、次に紹介する『デジタルフィルター』はより写真の仕上がりを追い込んでアーティスティックに加工するための機能だ。例えば、写真の周辺をわざと光量落ちさせて、中心部分の被写体が強調されるようにする"トイカメラ"や、全体が色あせたように色の彩度を落としセピアが掛かった色にする"レトロ"などは搭載するカメラも多く目にする機会も多いだろう。しかし、『K-5』の『デジタルフィルター』機能は一歩先を行く表現力を持っている。
『K-5』に収録されている『デジタルフィルター』はなんと全18種類。これを撮影時に任意に8種類ずつプリセットしておくことができる。また、1枚の写真に対して20回までフィルターを重ね掛けすることができるので、前述の"トイカメラ"や"レトロ"を同時に組み合わせることも可能だ。1枚目の作例は2010年11月に撮った秩父鉄道の武州日野駅だが、まるで1960年代に撮影したと思わせるような仕上がりだ。また、『デジタルフィルター』に"水彩画"や"パステル"など絵画的な技法のフィルターがあるのもペンタックス製カメラの特長だ。2枚目の作例は"水彩画"と"パステル"を組み合わせたもの。写真だと思えないぐらい絵画的な仕上がりになっている。
写真を撮影していると、意図的に撮ったわけではないのに"面白い!"と思えるカットが生まれることがある。『K-5』に搭載されている『クロスプロセス』はこの"意図しない画作り"をカメラに処理を任せることで自分から作りだそうという機能だ。
作例を見て欲しい。7枚の写真は同じ場所で『クロスプロセス』を適用して連写した例だ。赤、青、黄、緑、紫、オレンジ、藍色と7色のフィルターが掛かったような写真になっている。例えば、黄色や緑色のフィルターはレトロな感じの雰囲気になっているし、青系のフィルターは廃線の物寂しげな情感を醸し出している。『クロスプロセス』は、写真の色合いやコントラストをランダムに変化させることで、“意図しない写真表現”を作る機能だ。もちろん、気に入った設定が偶然できた場合には、"お気に入り"に最大3種類まで登録することができるので、複数のカットに同じ設定を適用することもできる。この『クロスプロセス』は、フィルムの偶然性をデジタルで楽しめる機能と言えるだろう。
レンズ | DA12-24mmF4 ED AL[IF] |
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撮影モード | 絞り優先 |
焦点距離 | 15mm |
シャッター速度 | 1/160 |
絞り数値 | F8.0 |
ISO感度 | 400 |
自分の腕だけではなく、時には気楽に"偶然"という運に身を任せても良いかも知れない。
"HDR"とは「High Dynamic Range」の略。この「ハイダイナミックレンジ」とは、写真を構成するピクセルの中で"最も明るい部分と最も暗い部分の比率が高い"という意味だ。端的に言えば、明るい部分と暗い部分がどちらかに引っぱられず、白飛びや黒潰れせずに両立できる、と言ってもよい。
鉄道写真を夜間や薄暗い駅の構内などで撮ったことのある読者なら経験あると思うが、例えばヘッドマークや電飾された明るいサボに露出を合わせると、周りの車輌が暗くなり潰れてしまう。逆に車輌に露出を合わせると、電飾のサボの部分が白く飛んでしまうということがある。人間の目では両方ともバランス良く見えていてもカメラで撮ると、両立させるのが難しい。カメラより人間の眼のダイナミックレンジの方が圧倒的に広いため、明るい部分と暗い部分を見た目と同じように両立させるのが難しいからだ。それを見た目に近い写真に補おうというのがこの"HDR"で撮影すること。
そのためHDR撮影は近年注目を浴びているが、従来のHDR撮影は使い勝手に難があった。1枚の写真を撮るのに標準、露出オーバー、露出アンダーと、全く同じ写真を3種類の明るさで撮ったものを合成する必要があるため、写真ズレをなくすために三脚が必須になるということだ。
これをより高度により撮りやすくしたのが、『K-5』の"手持ちHDR撮影"だ。『K-5』では、3枚撮影したときの構図のズレを自動的に補正し、手が動いて構図が少しズレていても、三脚で撮ったのと同じように精度が高い合成をしてくれる。また、HDRの効果を微調整することもできるので、できあがりの写真を見て"明るすぎる""暗すぎる"といった場合に適度に調節が可能だ。これがあれば、夜間の駅構内など三脚が使えないような場所でもHDR撮影をすることができる。
中井カメラマン: "木流しは"流し撮りを線路の側に立つ樹木の向こうから行うテクニックです。木を挟んで流すことにより、樹木の緑を画面全体にちりばめて鮮やかで印象的な写真を作ることができます。"木流し"のポイントは、流し撮りで列車をピッタリと追随できるテクニックがまず必要です。このため晴天下ではシャッタースピードを遅くする必要があります。私の場合には、光を減光する「NDフィルター」を使うか、絞りを絞り込んでシャッタースピードを遅くしています。流鉄のように高速で走らない鉄道は絞り込んでもシャッタースピードを遅くしにくいので、フィルターを使うと良いでしょう。
さらに"木流し"でも気をつけなければならないのは木の幹と列車の位置関係です。列車の先頭が木の幹に掛かってしまうと、列車が見えなくなってしまいますので、列車の先頭を右端か左端に配置し、木の幹を中心前後にもってくると、ベストなバランスです。流し撮りしながら構図を作るのはなかなか難しいですが、何度か練習すれば感覚がつかめるようになりますよ。
中井 精也
(なかい せいや)
1967年10月東京生まれ
小学校6年のときに父親からカメラをもらったのがきっかけで鉄道写真を撮り始め現在に至る。中学から大学までずーっと鉄道研究会に所属する筋金入りの鉄ちゃんでもある。大学卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。雑誌、広告撮影のほか、テレビ出演、「JAL旬感旅行」の鉄道写真ツアー講師など幅広く活躍している。2004年春から毎日必ず一枚鉄道写真を撮影する「1日1鉄!」(ブログ)を更新中!鉄道の旅の臨場感を感じさせる写真を撮りたいといつも考えている。
社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
日本鉄道写真作家協会(JRPS)副会長
ブログ『1日1鉄!』 >>
- 有効画素数
- 約1628万画素
- 連続撮影速度
- 最高約7コマ/秒
- ISO感度
- ISO100~12800、カスタム設定により拡張ISO80~51200使用可能、バルブ時はISO1600まで
- 動画撮影機能
- フルHD(最高1920×1080 25fps)
Motion JPEG(AVI) - ファインダー
- ペンタプリズムファインダー 視野率約100%、
倍率約0.92倍(50mmF1.4レンズ、∞) - 液晶モニター
- 3.0型 約92.1万ドット 反射防止ARコート
- カスタムイメージ
- 鮮やか、ナチュラル、人物、風景、雅(MIYABI)、ほのか、モノトーン、 リバーサルフィルム、銀残し
- サイズ/重量
- 131(幅)×97(高さ)×73(厚さ)mm/約660g(本体のみ)
- ラインナップ
- ・K-5 ボディ
・K-5 18-135レンズキット
※smc PENTAX-DA18-135mm
F3.5-5.6ED AL[IF]DC WR(フード付き)が付属
・K-5 18-55レンズキット
※ smc PENTAX-DA18-55mm
F3.5-5.6AL WR(フード付き)が付属