レイルマン中井の『ペンタックス K-5』で撮るワンランク上の鉄道写真 | 第三回 ペンタックス K-5でより表現力の高い高度な写真に挑戦! 作例 中井精也 文/取材 シバタススム | 前回はノイズの生じにくい高ISO感度や精度の高いAF、自動水平補正と写真をより撮りやすくする機能を紹介した。しかし、イマドキのカメラは"撮りやすい"だけに留まらない。『K-5』はより自分なりの表現を追求していくアーティストのための画像処理機能が豊富に搭載されている。今回はこのフィルター機能について紹介していく。また、中井カメラマンの真骨頂の技法とも言える"木流し"のテクニックや、ペンタックスカレンダーのロケ地の一つ流鉄を訪ねて、その撮影秘話も明らかにしていく。

カスタムイメージで思い通りの絵にする

レンズDA18-135mmF3.5-5.6ED
AL[IF] DC WR
撮影モード絞り優先
焦点距離105mm
シャッター速度1/640
絞り数値F5
ISO感度400

カスタムイメージの"ほのか"を使った作例。絞りを開放気味で撮り、周囲の花や背景の秩父鉄道 1000系をわざとぼかしつつ、"ほのか"を使うことで、写真全体が柔らかく印象的な仕上がりになっている。

 フィルム時代には、被写体ごとにそれに適したフィルムを選ぶことで、より被写体を引き立たせるという技法があった。例えば、フィルム時代から撮っている読者であれば、『ベルビア』などのフィルムを使ったというケースも多いのではないだろうか。また、フィルムは現像するときにもちょっとしたテクニックで独特の写真を作ることができた。

 デジタル写真においても、RAWデータから現像するときには現像ソフトで写真を様々に加工して、このフィルムを選ぶような自分なりの表現技法を編み出しているカメラマンは多い。とはいえ、どうしても現像ソフトやレタッチソフトなどで、彩度やコントラストなどを調整する必要があるため、手間が掛かり、PCが苦手なユーザーには辛い作業だ。

 しかし『K-5』はこのような画像仕上げをカメラ内でやってくれる『カスタムイメージ』機能が搭載されている。『カスタムイメージ』を使えばカメラの操作だけでさまざまな表現を作ることができる。

 例えば、中井カメラマンは色の芯を残しつつ、彩度を下げることで写真全体をふんわりと柔らかく仕上げる"ほのか"というカスタムイメージをよく使用する。これによって、時には重々しい鉄道写真が優しく人当たりの良いものになる。
他にも『カスタムイメージ』には、映画でよく使われる技法で、彩度が低くローキーな渋い写真を作る"銀残し"など様々な表現方法が搭載されており、シーンや自分が表現したい技法に合わせて選ぶことができる。

レンズDA★60-250mmF4ED
[IF] SDM
撮影モード絞り優先
焦点距離250mm
シャッター速度1/50
絞り数値F8
ISO感度400

こちらは"銀残し"を使った作例。全体的に暗めのローキーな仕上がりで、落ち着いた心象風景のような表現になる。蒸気機関車を重量感ある写真を撮るなら、この"銀残し"はオススメだ。

page top

様々な効果を楽しめるデジタルフィルター

レンズDA18-135mmF3.5-5.6ED
AL[IF] DC WR
撮影モード絞り優先
焦点距離48mm
シャッター速度1/400
絞り数値F5.6
ISO感度400

デジタルフィルター"トイカメラ"と"レトロ"を同時に適応した作例。撮影したのは2010年の11月だが、まるで50年前の写真を見ているようだ。このような表現が『K-5』ではカメラ単独の操作で可能だ。

 『カスタムイメージ』がフィルムの選択であるならば、次に紹介する『デジタルフィルター』はより写真の仕上がりを追い込んでアーティスティックに加工するための機能だ。例えば、写真の周辺をわざと光量落ちさせて、中心部分の被写体が強調されるようにする"トイカメラ"や、全体が色あせたように色の彩度を落としセピアが掛かった色にする"レトロ"などは搭載するカメラも多く目にする機会も多いだろう。しかし、『K-5』の『デジタルフィルター』機能は一歩先を行く表現力を持っている。

 『K-5』に収録されている『デジタルフィルター』はなんと全18種類。これを撮影時に任意に8種類ずつプリセットしておくことができる。また、1枚の写真に対して20回までフィルターを重ね掛けすることができるので、前述の"トイカメラ"や"レトロ"を同時に組み合わせることも可能だ。1枚目の作例は2010年11月に撮った秩父鉄道の武州日野駅だが、まるで1960年代に撮影したと思わせるような仕上がりだ。また、『デジタルフィルター』に"水彩画"や"パステル"など絵画的な技法のフィルターがあるのもペンタックス製カメラの特長だ。2枚目の作例は"水彩画"と"パステル"を組み合わせたもの。写真だと思えないぐらい絵画的な仕上がりになっている。

レンズDA★60-250mmF4ED
[IF] SDM
撮影モード絞り優先
焦点距離250mm
シャッター速度1/250
絞り数値F7.1
ISO感度400

"パステル"を使用した作例。秩父鉄道 1000系のブルーの車体に黄色の花がよく映える。

page top

独特の色を作り出せるクロスプロセス

 写真を撮影していると、意図的に撮ったわけではないのに"面白い!"と思えるカットが生まれることがある。『K-5』に搭載されている『クロスプロセス』はこの"意図しない画作り"をカメラに処理を任せることで自分から作りだそうという機能だ。

 作例を見て欲しい。7枚の写真は同じ場所で『クロスプロセス』を適用して連写した例だ。赤、青、黄、緑、紫、オレンジ、藍色と7色のフィルターが掛かったような写真になっている。例えば、黄色や緑色のフィルターはレトロな感じの雰囲気になっているし、青系のフィルターは廃線の物寂しげな情感を醸し出している。『クロスプロセス』は、写真の色合いやコントラストをランダムに変化させることで、“意図しない写真表現”を作る機能だ。もちろん、気に入った設定が偶然できた場合には、"お気に入り"に最大3種類まで登録することができるので、複数のカットに同じ設定を適用することもできる。この『クロスプロセス』は、フィルムの偶然性をデジタルで楽しめる機能と言えるだろう。

レンズDA12-24mmF4 ED
AL[IF]
撮影モード絞り優先
焦点距離15mm
シャッター速度1/160
絞り数値F8.0
ISO感度400

 自分の腕だけではなく、時には気楽に"偶然"という運に身を任せても良いかも知れない。

page top

手持ち撮影ができるHDRで隅から隅まで写し取る

 "HDR"とは「High Dynamic Range」の略。この「ハイダイナミックレンジ」とは、写真を構成するピクセルの中で"最も明るい部分と最も暗い部分の比率が高い"という意味だ。端的に言えば、明るい部分と暗い部分がどちらかに引っぱられず、白飛びや黒潰れせずに両立できる、と言ってもよい。

 鉄道写真を夜間や薄暗い駅の構内などで撮ったことのある読者なら経験あると思うが、例えばヘッドマークや電飾された明るいサボに露出を合わせると、周りの車輌が暗くなり潰れてしまう。逆に車輌に露出を合わせると、電飾のサボの部分が白く飛んでしまうということがある。人間の目では両方ともバランス良く見えていてもカメラで撮ると、両立させるのが難しい。カメラより人間の眼のダイナミックレンジの方が圧倒的に広いため、明るい部分と暗い部分を見た目と同じように両立させるのが難しいからだ。それを見た目に近い写真に補おうというのがこの"HDR"で撮影すること。

 そのためHDR撮影は近年注目を浴びているが、従来のHDR撮影は使い勝手に難があった。1枚の写真を撮るのに標準、露出オーバー、露出アンダーと、全く同じ写真を3種類の明るさで撮ったものを合成する必要があるため、写真ズレをなくすために三脚が必須になるということだ。

 これをより高度により撮りやすくしたのが、『K-5』の"手持ちHDR撮影"だ。『K-5』では、3枚撮影したときの構図のズレを自動的に補正し、手が動いて構図が少しズレていても、三脚で撮ったのと同じように精度が高い合成をしてくれる。また、HDRの効果を微調整することもできるので、できあがりの写真を見て"明るすぎる""暗すぎる"といった場合に適度に調節が可能だ。これがあれば、夜間の駅構内など三脚が使えないような場所でもHDR撮影をすることができる。

【HDR無効時】
外光が差している薄暗い運転台では、明暗差が大きいため陰の部分が暗く潰れやすくなり、窓のハイライト部分が白くとんでいる。

【HDR撮影時】
"手持ちHDR撮影"を使うことで、運転台のような狭い空間でも三脚を使わずに、HDR撮影をすることができる。合成の精度はまるでワンショットで撮ったのとまるで違いが分からないほど正確だ。

page top

レイルマン中井がゆく『2011年版ペンタックスカレンダー』はこうして作られた! 流鉄編

中井カメラマン:今回は4月の風景をご紹介します。4月といえば、やはり日本人にとって桜は欠かせない風景でしょう。そこで、流鉄の馬橋~幸谷駅間に見事に咲いた桜並で撮影してみました。この区間は新坂川という小さい川に沿って流鉄が走っています。その川辺に桜並木があり、線路から川を挟んで反対側の遊歩道から撮ると、このように列車と桜を合わせた写真を撮ることができます。流鉄は上野から30分前後と近い場所にありますが、元西武の101系を改造した2輌編成の電車が走るとってものどかな路線です。ここも私のお気に入りの路線の一つです。

2011年版ペンタックスカレンダーの購入はこちら
レンズDA18-135mmF3.5-5.6ED
AL[IF] DC WR
撮影モードマニュアル
焦点距離19mm
シャッター速度1/25
絞り数値F22
ISO感度200

カレンダーでは4月の桜並木だったが、取材した12月は紅葉も終盤、既に葉が落ちかけていた。しかし黄色く色づいた葉を残している木もあり、中井カメラマンはこの木を利用して見事な"木流し"の技法を『K-5』で撮影してくれた。この"木流し"については、下記のテクニック講座で詳しく解説する。

これが撮影風景。川辺の遊歩道から列車の側面を狙って木を挟んで流し撮りをすることで、"木流し"と呼ばれる木々の葉の色を画面全体にちりばめる技法となる。

page top

コラム | レイルマン中井の撮影テクニック講座その3 中井流の「ゆる鉄写真」のテクニックの一つ「木流し」を紹介する!

レンズDA18-135mmF3.5-5.6ED
AL[IF] DC WR
撮影モードマニュアル
焦点距離19mm
シャッター速度1/25
絞り数値F22
ISO感度200

中井カメラマン: "木流しは"流し撮りを線路の側に立つ樹木の向こうから行うテクニックです。木を挟んで流すことにより、樹木の緑を画面全体にちりばめて鮮やかで印象的な写真を作ることができます。"木流し"のポイントは、流し撮りで列車をピッタリと追随できるテクニックがまず必要です。このため晴天下ではシャッタースピードを遅くする必要があります。私の場合には、光を減光する「NDフィルター」を使うか、絞りを絞り込んでシャッタースピードを遅くしています。流鉄のように高速で走らない鉄道は絞り込んでもシャッタースピードを遅くしにくいので、フィルターを使うと良いでしょう。

 さらに"木流し"でも気をつけなければならないのは木の幹と列車の位置関係です。列車の先頭が木の幹に掛かってしまうと、列車が見えなくなってしまいますので、列車の先頭を右端か左端に配置し、木の幹を中心前後にもってくると、ベストなバランスです。流し撮りしながら構図を作るのはなかなか難しいですが、何度か練習すれば感覚がつかめるようになりますよ。

page top

中井カメラマンプロフィール

中井 精也
(なかい せいや)
1967年10月東京生まれ

小学校6年のときに父親からカメラをもらったのがきっかけで鉄道写真を撮り始め現在に至る。中学から大学までずーっと鉄道研究会に所属する筋金入りの鉄ちゃんでもある。大学卒業後、鉄道写真家の真島満秀氏に師事。雑誌、広告撮影のほか、テレビ出演、「JAL旬感旅行」の鉄道写真ツアー講師など幅広く活躍している。2004年春から毎日必ず一枚鉄道写真を撮影する「1日1鉄!」(ブログ)を更新中!鉄道の旅の臨場感を感じさせる写真を撮りたいといつも考えている。
社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
日本鉄道写真作家協会(JRPS)副会長
ブログ『1日1鉄!』 >>

PENTAX K5 スペック

有効画素数
約1628万画素
連続撮影速度
最高約7コマ/秒
ISO感度
ISO100~12800、カスタム設定により拡張ISO80~51200使用可能、バルブ時はISO1600まで
動画撮影機能
フルHD(最高1920×1080 25fps)
Motion JPEG(AVI)
ファインダー
ペンタプリズムファインダー 視野率約100%、
倍率約0.92倍(50mmF1.4レンズ、∞)
液晶モニター
3.0型 約92.1万ドット 反射防止ARコート
カスタムイメージ
鮮やか、ナチュラル、人物、風景、雅(MIYABI)、ほのか、モノトーン、 リバーサルフィルム、銀残し
サイズ/重量
131(幅)×97(高さ)×73(厚さ)mm/約660g(本体のみ)
ラインナップ
・K-5 ボディ
・K-5 18-135レンズキット
 ※smc PENTAX-DA18-135mm
 F3.5-5.6ED AL[IF]DC WR(フード付き)が付属
・K-5 18-55レンズキット
 ※ smc PENTAX-DA18-55mm
 F3.5-5.6AL WR(フード付き)が付属
公式サイト PENTAX K5

DA★60-250mmF4ED [IF] SDM

画角
26.5~6.5度
構成枚数
13群・15枚
最小絞り
F32
最短撮影距離
1.1m
フィルター径
67mm
最大径×長さ
82×167.5mm
質量 (重さ)
1040g

DA18-135mmF3.5-5.6ED AL[IF] DC WR

画角
76~11.9度
構成枚数
11群・13枚
最小絞り
F22-F38
最短撮影距離
0.4m
フィルター径
62mm
最大径×長さ
73×76mm
質量 (重さ)
405g

DA18-55mmF3.5-5.6AL WR

画角
76~29度
構成枚数
8群・11枚
最小絞り
F22-F38
最短撮影距離
0.25m
フィルター径
52mm
最大径×長さ
68.5×67.5mm
質量 (重さ)
235g