新京成初の完全自社発注車800形
新京成初の自社発注車とされるのが、1971年に登場した800形です。

開業以来、京成の中古車を導入してきた新京成ですが、輸送力の増強が必要な中、京成からの車両譲受が見込めない状況となり、自社発注の新車を導入する流れとなりました。なお、800形以前にも同社は自社で発注した車両を導入しているのですが、これらは機器類を京成の引退車から流用していたため、完全な新車とは言えませんでした。

自社発注車である800形ですが、設計自体は京成の「赤電」をベースとしており、京成3100形~3300形の更新前のように、先頭上部に前照灯2つを配置した見た目となっていました。なお、後に実施された改造工事では、前面の貫通扉は埋め込まれ、前照灯の位置も変わっています。

当初は2または4両編成で製造された800形は、後年の利用客増加に対応し、6または8両編成へと組み替えられました。この際、中間に組み込まれた先頭車は、運転台などを撤去した車両となっています。一部の車両では乗務員室を完全に撤去していたのですが、一方で乗務員室の形を残した車両も。後者では、元運転台は立ち入り禁止でしたが、元車掌台側は開放されており、半個室のようなスペースとなっていました。

新京成線内の運用のほか、北総線への直通運転にも使われていた800形ですが、2005年以降は廃車が進行。2006年に始まった京成千葉線への直通運転に使われることもなく、2010年に営業運転を終了しました。
なお、800形の形式名は、空き番号であることに加え、末広がりの「八」を意識したのだとか。この8から始まる形式名は、続く8000形から、新京成最後の新車となった80000形まで、歴代車両に受け継がれています。
「くぬぎ山のタヌキ」8000形
800形に続く自社発注車として登場したのが、1978年デビューの8000形です。

8000形では、前面に縁取りが入るデザインとなり、その見た目から「くぬぎ山のタヌキ」などといった愛称がつけられました。登場時は当時の同社標準のツートンカラーでしたが、第2編成以降はクリーム地にマルーン帯のデザインに変更。2006年の京成千葉線直通開始に際しては帯のデザインが改められ、さらに2017年には新京成のコーポレートカラー「ジェントルピンク」をまとった編成が登場しました。


製造時は抵抗制御または界磁チョッパ制御だった8000形ですが、2008年にはVVVFインバータ制御への改造車が登場。一方で、N800形の導入によって2011年には廃車が始まり、8000形は2021年に運用を終了しました。
VVVFインバータ制御車の歴史を刻む 主力車両の8800形
今では当たり前のように各社の新型車両で採用されているVVVFインバータ制御ですが、その導入史のマイルストーンといえるのが、1986年にデビューした8800形です。

VVVFインバータ制御は、1970年代から鉄道・メーカー各社で開発試験が進められており、1982年には長崎電気軌道で初の採用車である8200形が登場。1984年には大阪市交通局(現:大阪メトロ)20系が登場し、同年には初のVVVF新製車として、近鉄1250系(現:1420系)も製造されています。
そうした流れを経て登場した8800形は、関東私鉄では初となる、VVVFインバータ制御採用の新製車。また、日本の鉄道では初めて、直流1500ボルト線区用として本格的に導入されたVVVFインバータ制御車でもあります。ちなみに、東急9000系も新京成8800形と同じ1986年デビューのVVVF車ですが、デビュー日はわずかに8800形の方が先となっています。

8両編成12本が投入された8800形は、ほとんどが京成から譲受した旧型車で構成されていた8両編成運用を置き換え、新京成線の近代化に貢献しました。2025年現在も、新京成の車両のうち半数以上を8800形が占めており、同社の主力車両となっています。
8両編成として製造された8800形でしたが、2006年に始まった京成千葉線への直通運転に際し、一部の編成が6両編成へと改造されました。当初は直通対応編成を用意するための改造だったのですが、後に全編成が6両編成となり、8両12本から6両16本の陣容へと変わりました。なお、この編成短縮に際しては、8両編成から抜かれた中間車8両が先頭化改造されています。

デビュー時はクリーム地にマルーン帯というデザインだった8800形ですが、2006年に登場した京成線直通対応編成ではN800形のようなデザインの帯に変更され、2014年には「ジェントルピンク」デザインが登場しています。さらに、一部編成では内装や機器類のリニューアル工事も実施され、装いを新たにしています。
新京成の主力車両として活躍してきた8800形ですが、2022年には初の廃車が発生しています。一方で、2024年にはかつての塗装を復刻した編成が登場し、沿線を賑わせています。

実は「ダブルデッカー」とする案もあった? 意欲的な設計だった8900形
新京成初のステンレス車両として登場したのが、1993年デビューの8900形です。8両編成3本のみが製造された小所帯の形式ですが、設計では意欲的な面が多く見られました。

近年の電車では一般的に採用されるようになったシングルアーム式パンタグラフですが、1993年当時はまだ珍しいものでした。8900形では、首都圏ではいち早くこれを採用。当時同社にパンタグラフを納入していたメーカーに製造を持ち掛けたものの断られ、JR貨物に機関車用としてシングルアーム式を納入した別の会社の製品を導入したという逸話があります。
また、乗降用ドアは、従来よりも幅を広げたワイドドアに。運転台の速度計などは、当時JR西日本や南海でも導入されていたデジタル式となりました。さらに、開発時点ではダブルデッカー車とする構想もあったのだとか。なお、後年の改造などで、パンタグラフは別メーカーの製品に換装され、運転台のデジタルメーターも一般的なアナログメーターへ交換されています。

8800形とともに8両編成で活躍してきた8900形ですが、新京成の全編成6両化の方針によって、2014年に全編成が6両に編成短縮されました。抜き取られた中間車は、8800形のように活用されることもなく、そのまま廃車となっています。また、編成数が少ないことが災いしてか、京成線への直通対応車となることもなく、デビュー時からもっぱら新京成線内のみの運用に就いています。
京成3000形の兄弟車 N800形
8000形、8800形、8900形と独自の車両を導入してきた新京成ですが、2005年には一転、京成電鉄と同じ設計の車両として、N800形を導入することとなりました。
N800形は、京成3000形と共通設計の車両。当時は京成3000形が京成グループ標準設計の車両とされており、N800形の他にも、北総鉄道7500形、千葉ニュータウン鉄道9200形が、3000形と同一設計の車両として導入されています。

新京成は三菱電機と関係が深く、それまでに導入されてきた新造車両では、制御装置などの機器類は三菱製が採用されてきました。しかし、京成車の設計を基本としたN800形は、制御装置は東洋電機製造となるなど、それまでの慣例から外れた部分がありました。ただし、完全に京成3000形と同じというわけではなく、扉脇に設置された鏡のほか、車内外のデザイン、無線などの一部搭載機器類は、新京成の独自仕様となっています。
2005年から2018年にかけて5本が導入されたN800形は、8800形と同様に、京成千葉線への直通運転にも使用されています。デビュー時にはマルーン色の帯をまとったデザインでしたが、2014年には「ジェントルピンク」となった編成が登場。2015年製の車両以降では、登場時からこのデザインとなっています。

京成車と兄弟車、でも中身は異なる80000形
80000形は、2019年に営業運転を開始した車両。新京成電鉄最新の車両で、初めてデビュー時から「ジェントルピンク」をまとった車両、さらに同社として最後に導入した形式でもあります。

N800形と京成3000形の関係と同様に、80000形は京成3100形と共通の設計となっています。ただし、京成が開発したグループ標準車両だったN800形とは異なり、80000形では新京成と京成の共同設計。双方の技術やアイデアを持ち寄って設計された車両だということで、たとえば先頭部の急行灯や尾灯の形は、新京成のアイデアが反映されたのだといいます。
もちろん、80000形は京成3100形と完全に同じというわけではありません。カラーリングの違いはもちろんのこと、運転台の機器配置や、VVVFインバータ制御装置の製造メーカー(三菱電機製の800000形に対し京成3100形は東洋電機製造製)などの相違点があります。
80000形は、運用開始当初より京成線直通対応のスイッチを運転台に搭載しているのですが、2023年まで京成線で使われていた無線システム(IR無線)には非対応で、これまで京成千葉線への直通運用に使用されたことはありません。新製直後の回送で京成本線などを自走したことはありますが、営業運転ではもっぱら新京成線内のみで活躍しています。