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新京成版「赤電」や「くぬぎ山のタヌキ」、親会社との「兄弟車」も 新京成の歴代車両を振り返る

2025年3月20日(祝) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

千葉県内を走る路線を運営している新京成電鉄は、4月1日付で、親会社の京成電鉄に吸収合併される予定です。

旧日本陸軍鉄道連隊演習線の払い下げを受けて1947年に開業した新京成線では、開業から20年ほどは、京成電鉄のお下がりの車両が使われていました。しかし、1971年には新京成初の完全自社発注車が登場。その後も完全オリジナルの車両の導入が続き、しばらくは独自路線を歩んでいました。

合併直前の現在も、4形式のバラエティに富んだ車両が走る新京成線。同線を走った車両たちを、自社発注車を中心に振り返っていきましょう。

新京成電鉄の車両
新京成電鉄の車両

新京成初の完全自社発注車800形

新京成初の自社発注車とされるのが、1971年に登場した800形です。

1971年に登場した800形。新京成初の完全自車発注車です
1971年に登場した800形。新京成初の完全自車発注車です

開業以来、京成の中古車を導入してきた新京成ですが、輸送力の増強が必要な中、京成からの車両譲受が見込めない状況となり、自社発注の新車を導入する流れとなりました。なお、800形以前にも同社は自社で発注した車両を導入しているのですが、これらは機器類を京成の引退車から流用していたため、完全な新車とは言えませんでした。

800形より前に導入された、京成電鉄の中古車両(南富良野さんの鉄道コム投稿写真)
800形より前に導入された、京成電鉄の中古車両(南富良野さんの鉄道コム投稿写真)

自社発注車である800形ですが、設計自体は京成の「赤電」をベースとしており、京成3100形~3300形の更新前のように、先頭上部に前照灯2つを配置した見た目となっていました。なお、後に実施された改造工事では、前面の貫通扉は埋め込まれ、前照灯の位置も変わっています。

登場時の800形(南富良野さんの鉄道コム投稿写真)
登場時の800形(南富良野さんの鉄道コム投稿写真)

当初は2または4両編成で製造された800形は、後年の利用客増加に対応し、6または8両編成へと組み替えられました。この際、中間に組み込まれた先頭車は、運転台などを撤去した車両となっています。一部の車両では乗務員室を完全に撤去していたのですが、一方で乗務員室の形を残した車両も。後者では、元運転台は立ち入り禁止でしたが、元車掌台側は開放されており、半個室のようなスペースとなっていました。

中間に組み込まれた800形の元先頭車。乗務員室の構造が残されており、元車掌台側は開放されていました
中間に組み込まれた800形の元先頭車。乗務員室の構造が残されており、元車掌台側は開放されていました

新京成線内の運用のほか、北総線への直通運転にも使われていた800形ですが、2005年以降は廃車が進行。2006年に始まった京成千葉線への直通運転に使われることもなく、2010年に営業運転を終了しました。

なお、800形の形式名は、空き番号であることに加え、末広がりの「八」を意識したのだとか。この8から始まる形式名は、続く8000形から、新京成最後の新車となった80000形まで、歴代車両に受け継がれています。

「くぬぎ山のタヌキ」8000形

800形に続く自社発注車として登場したのが、1978年デビューの8000形です。

「くぬぎ山のタヌキ」などと呼ばれた8000形。画像は京成線直通対応車となった後のデザインです
「くぬぎ山のタヌキ」などと呼ばれた8000形。画像は京成線直通対応車となった後のデザインです

8000形では、前面に縁取りが入るデザインとなり、その見た目から「くぬぎ山のタヌキ」などといった愛称がつけられました。登場時は当時の同社標準のツートンカラーでしたが、第2編成以降はクリーム地にマルーン帯のデザインに変更。2006年の京成千葉線直通開始に際しては帯のデザインが改められ、さらに2017年には新京成のコーポレートカラー「ジェントルピンク」をまとった編成が登場しました。

8000の第1編成(8502編成)は、デビュー時はツートンカラーをまとっていました。画像は、同編成による復刻カラーの「しんちゃん電車」です
8000の第1編成(8502編成)は、デビュー時はツートンカラーをまとっていました。画像は、同編成による復刻カラーの「しんちゃん電車」です
2017年に1本だけ登場した「ジェントルピンク」カラーの編成(右)。このデザインはわずか3年しか見られず、同編成は2020年に廃車となっています
2017年に1本だけ登場した「ジェントルピンク」カラーの編成(右)。このデザインはわずか3年しか見られず、同編成は2020年に廃車となっています

製造時は抵抗制御または界磁チョッパ制御だった8000形ですが、2008年にはVVVFインバータ制御への改造車が登場。一方で、N800形の導入によって2011年には廃車が始まり、8000形は2021年に運用を終了しました。

VVVFインバータ制御車の歴史を刻む 主力車両の8800形

今では当たり前のように各社の新型車両で採用されているVVVFインバータ制御ですが、その導入史のマイルストーンといえるのが、1986年にデビューした8800形です。

1986年にデビューした8800形
1986年にデビューした8800形

VVVFインバータ制御は、1970年代から鉄道・メーカー各社で開発試験が進められており、1982年には長崎電気軌道で初の採用車である8200形が登場。1984年には大阪市交通局(現:大阪メトロ)20系が登場し、同年には初のVVVF新製車として、近鉄1250系(現:1420系)も製造されています。

そうした流れを経て登場した8800形は、関東私鉄では初となる、VVVFインバータ制御採用の新製車。また、日本の鉄道では初めて、直流1500ボルト線区用として本格的に導入されたVVVFインバータ制御車でもあります。ちなみに、東急9000系も新京成8800形と同じ1986年デビューのVVVF車ですが、デビュー日はわずかに8800形の方が先となっています。

8両編成時代の8800形
8両編成時代の8800形

8両編成12本が投入された8800形は、ほとんどが京成から譲受した旧型車で構成されていた8両編成運用を置き換え、新京成線の近代化に貢献しました。2025年現在も、新京成の車両のうち半数以上を8800形が占めており、同社の主力車両となっています。

8両編成として製造された8800形でしたが、2006年に始まった京成千葉線への直通運転に際し、一部の編成が6両編成へと改造されました。当初は直通対応編成を用意するための改造だったのですが、後に全編成が6両編成となり、8両12本から6両16本の陣容へと変わりました。なお、この編成短縮に際しては、8両編成から抜かれた中間車8両が先頭化改造されています。

京成千葉線直通対応に改造された8800形。6両編成となったほか、帯のデザインも変更されました
京成千葉線直通対応に改造された8800形。6両編成となったほか、帯のデザインも変更されました

デビュー時はクリーム地にマルーン帯というデザインだった8800形ですが、2006年に登場した京成線直通対応編成ではN800形のようなデザインの帯に変更され、2014年には「ジェントルピンク」デザインが登場しています。さらに、一部編成では内装や機器類のリニューアル工事も実施され、装いを新たにしています。

新京成の主力車両として活躍してきた8800形ですが、2022年には初の廃車が発生しています。一方で、2024年にはかつての塗装を復刻した編成が登場し、沿線を賑わせています。

2024年に復刻された初代塗装
2024年に復刻された初代塗装

実は「ダブルデッカー」とする案もあった? 意欲的な設計だった8900形

新京成初のステンレス車両として登場したのが、1993年デビューの8900形です。8両編成3本のみが製造された小所帯の形式ですが、設計では意欲的な面が多く見られました。

1993年デビューの8900形
1993年デビューの8900形

近年の電車では一般的に採用されるようになったシングルアーム式パンタグラフですが、1993年当時はまだ珍しいものでした。8900形では、首都圏ではいち早くこれを採用。当時同社にパンタグラフを納入していたメーカーに製造を持ち掛けたものの断られ、JR貨物に機関車用としてシングルアーム式を納入した別の会社の製品を導入したという逸話があります。

また、乗降用ドアは、従来よりも幅を広げたワイドドアに。運転台の速度計などは、当時JR西日本や南海でも導入されていたデジタル式となりました。さらに、開発時点ではダブルデッカー車とする構想もあったのだとか。なお、後年の改造などで、パンタグラフは別メーカーの製品に換装され、運転台のデジタルメーターも一般的なアナログメーターへ交換されています。

「ジェントルピンク」に変更される前のデザインの8900形。赤系の帯と青系の帯というデザインでしたが、青系のカラーリングは8900形のみの採用で終わりました。パンタグラフも、現在のものとは形が異なり、上半分が二股にわかれる形状となっていました
「ジェントルピンク」に変更される前のデザインの8900形。赤系の帯と青系の帯というデザインでしたが、青系のカラーリングは8900形のみの採用で終わりました。パンタグラフも、現在のものとは形が異なり、上半分が二股にわかれる形状となっていました

8800形とともに8両編成で活躍してきた8900形ですが、新京成の全編成6両化の方針によって、2014年に全編成が6両に編成短縮されました。抜き取られた中間車は、8800形のように活用されることもなく、そのまま廃車となっています。また、編成数が少ないことが災いしてか、京成線への直通対応車となることもなく、デビュー時からもっぱら新京成線内のみの運用に就いています。

京成3000形の兄弟車 N800形

8000形、8800形、8900形と独自の車両を導入してきた新京成ですが、2005年には一転、京成電鉄と同じ設計の車両として、N800形を導入することとなりました。

N800形は、京成3000形と共通設計の車両。当時は京成3000形が京成グループ標準設計の車両とされており、N800形の他にも、北総鉄道7500形、千葉ニュータウン鉄道9200形が、3000形と同一設計の車両として導入されています。

2005年デビューのN800形。京成3000形と共通設計の車両です
2005年デビューのN800形。京成3000形と共通設計の車両です

新京成は三菱電機と関係が深く、それまでに導入されてきた新造車両では、制御装置などの機器類は三菱製が採用されてきました。しかし、京成車の設計を基本としたN800形は、制御装置は東洋電機製造となるなど、それまでの慣例から外れた部分がありました。ただし、完全に京成3000形と同じというわけではなく、扉脇に設置された鏡のほか、車内外のデザイン、無線などの一部搭載機器類は、新京成の独自仕様となっています。

2005年から2018年にかけて5本が導入されたN800形は、8800形と同様に、京成千葉線への直通運転にも使用されています。デビュー時にはマルーン色の帯をまとったデザインでしたが、2014年には「ジェントルピンク」となった編成が登場。2015年製の車両以降では、登場時からこのデザインとなっています。

登場時のN800形は、マルーン色の帯をまとう、従来の新京成車にはないデザインとなっていました。2024年7月には、1本がこのデザインに復元されています
登場時のN800形は、マルーン色の帯をまとう、従来の新京成車にはないデザインとなっていました。2024年7月には、1本がこのデザインに復元されています

京成車と兄弟車、でも中身は異なる80000形

80000形は、2019年に営業運転を開始した車両。新京成電鉄最新の車両で、初めてデビュー時から「ジェントルピンク」をまとった車両、さらに同社として最後に導入した形式でもあります。

新京成の最新型車両80000形。新京成が導入した形式としては最後となる車両でもあります
新京成の最新型車両80000形。新京成が導入した形式としては最後となる車両でもあります

N800形と京成3000形の関係と同様に、80000形は京成3100形と共通の設計となっています。ただし、京成が開発したグループ標準車両だったN800形とは異なり、80000形では新京成と京成の共同設計。双方の技術やアイデアを持ち寄って設計された車両だということで、たとえば先頭部の急行灯や尾灯の形は、新京成のアイデアが反映されたのだといいます。

もちろん、80000形は京成3100形と完全に同じというわけではありません。カラーリングの違いはもちろんのこと、運転台の機器配置や、VVVFインバータ制御装置の製造メーカー(三菱電機製の800000形に対し京成3100形は東洋電機製造製)などの相違点があります。

80000形は、運用開始当初より京成線直通対応のスイッチを運転台に搭載しているのですが、2023年まで京成線で使われていた無線システム(IR無線)には非対応で、これまで京成千葉線への直通運用に使用されたことはありません。新製直後の回送で京成本線などを自走したことはありますが、営業運転ではもっぱら新京成線内のみで活躍しています。

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