現代の高速移動手段の主流といえば、新幹線と飛行機です。新幹線は現在最高時速320キロですが、旅客機の巡航速度はおよそ時速800~900キロと大きく差が付いています。しかしながら、飛行機の先頭形状は、近年の新幹線よりもシンプルなもの。空気抵抗を考えると飛行機の方がより複雑になりそうですが、なぜ新幹線の倍以上の速さで飛ぶ飛行機の方よりも、新幹線の方が複雑な形となっているのでしょうか。
その理由の一つは、トンネル微気圧波、いわゆる「トンネルドン」という現象への対策。新幹線が高速でトンネルに進入すると、トンネル内の空気が圧縮され、反対側の出口から勢いよく吹き出します。この際に大きな衝撃音が発生し、騒音として問題となるほか、周囲に物理的な被害を与えることもあります。これを避けるため、近年の時速300キロ級新幹線車両では、先頭部を複雑な形状としているのです。
また、走行・飛行する向きも理由となります。旅客機は、飛行中は機首を先頭にして飛んでおり、尾部を先頭に飛ぶことはあり得ません。一方の新幹線では、終着駅に着くと、そのまま向きを変えて折り返すため、下り列車の先頭車両は、上り列車の最後尾となります。先頭部と最後部で最適な形状は異なるため、仮に先頭部のみに最適化した車両を作ると、最後尾の空力特性が悪化してしまいます。
事実、東海道新幹線で初めて営業時速270キロを達成した300系では、最後尾車両の揺れが問題となっていました。後継の700系では、トンネル微気圧波対策と最後尾の揺れ対策を両立した意識した「エアロストリーム」形状を採用。これが、最新のN700Sの「デュアル・スプリーム・ウィング」にも発展しています。