かつて自動車で流行したヘッドライトに、「リトラクタブルヘッドライト」、通称「リトラ」というものがありました。
この「リトラ」は、ボンネットに格納したライトが、点灯時にはせり上がってくるというもの。現在は使われていないものの、かつてはマツダ「RX-7」や日産「180SX」、そしてマンガ「頭文字D」の活躍で知られるトヨタ「スプリンタートレノ」AE86型など、1980~90年代のスポーティな車種に広く採用されました。
スポーツカー用装備のイメージが強い「リトラ」ですが、かつては鉄道車両で装備していたものもありました。近畿日本鉄道の20000系「楽」です。
「楽」は、1990年11月にデビューした団体専用車両。初代「あおぞら」後継車として開発された2階建て車両です。前照灯は、屋根上の2灯のほか、スカート内部に「リトラ」の補助灯が2灯組み込まれていました。近鉄では、「リトラ」の採用は鉄道車両初であるとしています。残念ながら、2020年のリニューアルによって「リトラ」は廃止され、現在は見ることができません。
また、京成電鉄の2代目「スカイライナー」用車両であるAE100形にも、格納式のヘッドライトが採用されていました。AE100形のデビューは1990年6月で、「楽」よりも若干早い登場でした。しかし、こちらは灯具自体が動いて格納されるわけではないので、「楽」やハチロクのような飛び出る「リトラ」とは、構造が少し異なっています。
先述したように、「楽」の「リトラ」はリニューアルによって消滅。AE100形も2016年に引退しており、現在は本線上で走る姿を見ることはできません。クルマであれば、現在でも旧車オーナーの愛車として時折見ることができますが、鉄道車両の「リトラ」は、既に過去のものとなってしまいました。