大阪市住吉区に構え、「すみよっさん」の愛称で親しまれる、住吉大社。最寄り駅は南海本線の住吉大社駅、阪堺電気軌道の住吉鳥居前駅などですが、2016年初頭までは、アクセスに便利な駅がもうひとつありました。
それが、阪堺電気軌道の住吉公園駅。天王寺駅前駅から延びる上町線の終着駅で、住吉大社駅の高架横にありました。駅前の路地に溶け込むレトロな駅舎が特徴で、ホームには金魚が住む水槽があるなど、穏やかな雰囲気が漂っていました。
住吉公園駅は、上町線を隣の住吉駅から延ばすかたちで、1913年に開業しました。昭和30年代には約1分間隔で列車が発着するなどの賑わいを見せたそうですが、その後、利用者が減少に転じます。それでも2013年の時点では、昼間も12分間隔で列車が設定されていました。
転機となったのは、2014年3月のダイヤ改正。利用者が多い別の区間を増発する一方、利用者の少ない住吉公園駅の発着を朝ラッシュ時の数本のみに削減したのです。それでも営業は続けられましたが、ここで、数億円と試算された駅周辺の線路の改修費用が問題になりました。
慢性的な赤字に悩む阪堺電気軌道。極端に本数の少ない区間に、多額の投資をする余裕はなかったのでしょう。2015年8月、阪堺は住吉公園~住吉間の廃止を決定。2016年1月31日に廃止となりました。最末期は、古参のモ161形に記念のヘッドマークを掲出したほか、普段は住吉公園駅に入らないモ1001形「堺トラム」が臨時の貸切列車で入線するなど、注目を集めました。
廃止後、線路跡は道路や駐車場などに転用されました。ただし、駅舎は残っており、そのレトロな佇まいを、開業から110年が経った現在も見ることができます。なお、ホームの水槽にいた金魚は市内の中学校に引っ越し、新たな生活の場を手に入れたようです。