日本で最も有名な展示SLといえば、新橋駅前の保存車両ではないでしょうか。テレビのインタビューでたびたび背景に映し出されるので、どの駅の場面か知らない、けれどテレビで見たことはある、という人も多いかもしれません。
このSLは、C11形292号機。1945年2月に落成し、1972年に引退。鉄道開業100周年を記念して、同年10月から新橋駅前に展示されています。2022年は鉄道開業150年ですから、今年で展示開始からちょうど50年。落成から引退までは27年なので、現役期間よりも保存展示期間の方が長い機関車となっています。
そんな292号機は、製造時期を見てわかるとおり、第二次世界大戦の末期に製造された個体。日本本土が空襲に晒された頃、また終戦後の混乱期といった、厳しい時代を生き抜いてきた機関車なのです。
戦時中に製造された車両では、物資の節約や製造工程の簡略化を目的とした「戦時設計」となっているものがあります。C11形では、この292号機を含むグループが該当。現在でも、通常は丸くなっているボイラー上の「蒸気ドーム」が角張っているのがわかります。さらに製造当時には、先頭部の板「デフレクター(除煙板)」が木製だったといいます。
第二次世界大戦終結から約80年の時が経過し、当時を知る人も減りつつありますが、当時の「モノ」は、今でもこうして身近なところで歴史を伝えてくれます。