「ドライバーが意識を失い……」という交通事故のニュースを見たことがある人は多いのではないでしょうか。人間である以上、突然意識を失う可能性は、誰でもゼロではありません。それは、健康状態を厳しく管理している鉄道の運転士でも同じ。電車の運転士が急に意識不明となった場合に備えて、日本の鉄道では2種類の安全装置が用意されています。
一つは「EB(Emergency Brake)装置」というもの。一定時間(多くは60秒間)、マスコンやブレーキ、警笛などの操作をしないと、ブザーが鳴ります。このブザーにも反応しなければ、自動的に非常ブレーキが掛かり、列車を停めて安全を確保するという装置です。ブザーが鳴った場合には、運転台のリセットスイッチを押すか、あるいは何かしらの運転機器操作をすれば、再び60秒間の監視状態に移行します。
もう一つは「デッドマン装置」。こちらはマスコンやブレーキハンドル、あるいは足元にスイッチがあり、運転中はずっとこれを握る(あるいは踏む)必要があります。スイッチを離した場合の挙動は車両によって異なり、ただ単に加速をやめるものや、EB装置と同じく非常ブレーキが掛かるものなど、さまざまな仕様があります。
EB装置は、国鉄が採用していたもので、現在もJRの車両を中心に搭載されています。デッドマン装置は私鉄の車両が中心。ただしJR西日本では、デッドマン装置を「EB-N装置」として、近年の車両で導入しています。
これらの装置は、現在は法令によって基本的に設置が義務付けられています。ただし、運転士が乗務する自動運転路線や新幹線など、他の保安装置で高度に安全が保たれている路線では、設置の必要はありません。
過去にはこのような路線で、運転士が居眠りしてしまい、列車が自動的に減速して駅に到着してから初めて外部が異常に気付く、というトラブルが発生したことがありました。居眠り自体は許されませんが、この事件は安全性が十分に担保されていることの裏返しでもあります。