都市部の地下を通るトンネルは、土の中にしっかりと固定されているイメージがあります。しかし、かつて東京の都心部で、このトンネルが浮上するという問題が起きてしまいました。一体何があったのでしょうか。
問題となったのは、東京駅の横須賀線・総武線快速ホームと、上野駅の東北新幹線ホーム。ともに地下30メートル程度の深い場所まで掘られた地下駅ですが、地下水によって駅が持ち上げられる事態が発生してしまったのです。
地下水は、地盤の中の「帯水層」を流れており、人類は古くからこれを井戸として活用してきました。小規模な利用なら問題ないのですが、工業用に大々的に地下水をくみ上げてしまうと、その分の地盤の体積が減り、地盤沈下を起こしてしまうのです。戦後日本ではこの問題を防ぐため、地下水のくみ上げを規制。結果、都市部での地盤沈下被害は抑えられました。
一方、その影響で地下水位が回復し、建設済みだったトンネルを押し上げてしまう量の水が地下を流れます。結果、東京駅や上野駅では、地下駅が浮き上がってしまう事態となったのです。いずれも計画当時から地下水位が回復した結果のできごとでした。
他の路線では、実際に地下水で駅が浮き上がり、列車が運休する事態に陥った例もあります。1991年、武蔵野線の新小平駅では、台風の影響で地下水位が上昇し、駅が浸水するとともに一部が隆起。武蔵野線は約2か月間の運休を余儀なくされてしまいました。
こちらも浮上する被害に遭っていた東京駅と上野駅では、トンネルの下部に固い岩盤と強固に結びつける「グラウンドアンカー」や錘を設置する工事を施行。また、トンネル内に地下水が染み出す問題もありましたが、防水対策を進めることで、地下水による影響を抑えています。
東京駅と上野駅に大きな影響を与えた地下水ですが、意外なところで活用もされています。
トンネルを持ち上げるだけでなく、トンネル内にも湧き出している地下水ですが、この水はいったん集められ、不忍池や立会川へと放流されています。これによって、両水域の水質改善に貢献しているのだそう。JRとしても、本来は下水道代を支払うはずの地下水排水を活用できるため、両者にとってWin-Winとなっています。