昭和から平成の過渡期に登場した、東急電鉄の1000系。現在は3両編成を組み、池上線・東急多摩川線をのんびりと走っています。
1000系の前面スタイルは、貫通扉を進行方向に対して右側に寄せ、運転席のスペースを広めにとったもの。先にデビューした9000系と、よく似ています。しかし、1013編成の先頭車(1013号車・1312号車)は貫通扉が中央にあり、ほかの編成とはスタイルが異なります。この「仲間はずれの顔」が生まれた背景には、1013編成が最初に投入された路線と、車両運用の都合がありました。
1000系は1988年に登場した車両で、東横線~地下鉄日比谷線直通用の8両編成、目蒲線(目黒~多摩川~蒲田間)用の4両編成などが投入されました。ですが、東横線用8両編成の一部は、4両編成を2本連結するかたちで製造されました。東横線と目蒲線の両方を走れる車両を用意すれば、片方の路線で車両が不足したとき、柔軟に対応できると考えられたようです。
しかし、1000系は前面の貫通扉が中央からズレたスタイルのため、連結すると、乗客が移動する通路を設置できません。そのため、8両編成の中間に入る先頭車は貫通扉を中央に配置し、連結時に乗客用の通路を作れるようにしました。この「仲間はずれの顔」は、かつて編成の中間に連結されていた名残なのです。
その後、1013号車・1312号車を含む編成(1012編成)は、池上線・東急多摩川線の運用に転じます。このとき、前面貫通扉の位置が同じ車両でひとつの編成を組むよう、組成が変更されました。これにより、いままでは向き合う形で組まれていた1013号車と1312号車は、中間車を挟む背中合わせで連結されるようになり、現在に至ります。
現在、この1013編成は、池上線の旧型車両をイメージしたラッピングが施され、緑色一色の姿で運用されています。また、1000系の「仲間はずれの顔」は、この2両以外にも1011号車と1310号車が存在していました。こちらは東急を引退し、三重県の伊賀鉄道で第2の人生を送っています。