鉄道会社では様々なイベントが開催されていますが、なかでも人気を集めるもののひとつが、「車両の運転体験」。運転席に座り、自分のハンドル操作で車両を動かす。「運転士」という、一度は抱いた夢を叶えられることが、人気の理由なのでしょう。
ですが、鉄道車両は誰でも運転できるわけではありません。「動力車操縦者運転免許に関する省令」(昭和31年運輸省令第43号)の第3条には、「鉄道、軌道及び無軌条電車の係員は、地方運輸局長の運転免許を受けた後でなければ、動力車を操縦してはならない」とあります。当然ながら、運転には免許が必要なのです。
ですが、この第3条には続きがあります。その部分を抜き出してみると、「ただし、運転見習中の係員が運転免許を受けた者と当該運転免許に係る動力車に同乗してその直接の指導を受ける場合又は本線を支障するおそれがない側線において移動する場合は、この限りでない」。重要なのは、後半の「本線を支障するおそれがない側線において移動する場合」の部分。ここに、免許を持たずとも鉄道車両を運転できるポイントが隠されています。
「本線」とは、簡単に言うと、駅と駅の間を結ぶ「列車」が通る線路のこと。これを邪魔しない場所、たとえば車両基地内の空いている線路などで車両を移動するだけの場合、免許は必ずしも要求されないということです。各種運転体験のイベントは、これに則って実施されています。「免許を持たないのに運転できるのか?」と思われるかもしれませんが、こうしたイベントは、しっかりと法律の範囲内で開催されているのです。
しかし、この状況を大きく変えたのが、島根県を走る一畑電車。同社は2024年8月、列車が通る「駅構内の線路上」での運転体験を開催すると発表しました。駅の構内ではありますが、これまでの運転体験とは異なり、法律上の「本線」に該当する場所での実施です。ですが、このイベントも、法律から逸脱しているわけではありません。
一畑電車の運転体験は、深夜帯に開催されます。イベント参加者は、最終列車が走った後、列車が来ないタイミングで運転体験に挑みます。運転体験の新たなカタチといえますが、今後、他社にも広まっていくのか、注目です。