駅のホームで列車が来るまで、ベンチに座って待つこともあるでしょう。ホームのベンチといえば、かつては線路に向かうように設置され、到着した列車に一直線で乗れるようになっていることが一般的でした。が、最近はその当たり前が変わりつつあり、列車の進行方向またはその逆向きに設置されているものも増えています。
ベンチの向きの変更は、2015年頃から、まず関西地区で広まりました。その理由は、乗客が線路に落ち、人身事故につながることを防ぐため。とくに「酔っ払い」の事故を減らすことを意識しているようです。
駅のホームで起こった人身傷害事故の数は、2000年代初頭からの約10年間で大きく増えており、その半分以上が酒に酔った乗客によるものだったとか。また、JR西日本と大阪市交通局(現在の大阪メトロ)が調べた結果、酔っ払いは「ベンチから立ち上がった後、まっすぐ前に進みがちである」ことがわかりました。さらに、線路に落ちる事故は、ホームの端ギリギリを歩いて足を踏み外すより、列車の到着に気づかぬまま線路の方向に歩いて落ちるケースの方が多いのだそうです。
そこで考えられた対策が、ベンチの向きを変えることでした。こうすれば、人がまっすぐ進んでも、列車が走る場所に落ちる危険は少なくなります。事故をゼロにはできずとも、「数を減らす」点では、効果が確認できているそうです。また、駅によっては、線路に背中を向けるようにベンチを置くなど、違う方法で対策をしていることもあります。
転落事故を防ぐことは、その人の命を守るだけでなく、列車を使う多くの人を時間通りに運ぶうえでも大切なことです。最近は都市部を中心にホームドアが設置された駅も多くなりましたが、対策はそれだけではないのです。
みなさんは、駅で「ちょっとした変化」に気づいたことはありますか?その変化、じつは事故を防ぐための、大切な取り組みかもしれません。