豊橋市を走る豊橋鉄道の路面電車は、終点の一つ手前の井原停留場で、路線が2方向に分岐します。分岐点という以外は何の変哲もないようなこの停留場ですが、カーブを通過する電車を見ると、明らかに急な曲がり方をしています。実はこの場所には、一般旅客が乗れる路線において、最も半径が小さいカーブが設けられているのです。
井原停留場のカーブは、半径11メートル。在来線では、カーブは半径160メートル(ポイントに付帯するものでは半径100メートル)以上にすること、と定められているので、数値で見ても明らかに急です。外から観察していると、車体側面から台車枠がはみ出しているのが見てわかります。
この急カーブは、1982年の井原~運動公園前間開業によって設けられたもの。たった一つの停留場間の短い支線の新設でしたが、これによって豊橋鉄道の名物の一つが生まれたことになります。
なお、国内にはさらに急なカーブとして、半径7メートルというものも存在。こちらは常願寺川の砂防工事用に使われている立山砂防軌道の路線にあります。ただし、こちらは関係者以外は乗ることができない専用鉄道で、一般利用者が体験できる機会は基本的にありません。
豊橋鉄道は「軌道法」に基づく路面電車です。では「鉄道事業法」に基づく狭義の鉄道の最急カーブはというと、黒部峡谷鉄道の半径21.5メートル。このほか、箱根登山鉄道や江ノ島電鉄、京阪京津線(軌道法)でも、半径40メートル以下の急カーブが存在します。