首都圏と北陸エリアを結ぶ北陸新幹線では、JR東日本とJR西日本が共同開発したE7系・W7系が使われています。E7系は、北陸新幹線のほかに、上越新幹線でも使われる車両。臨時列車として、東北新幹線を走ることもあります。
では、E7系とは逆に、東北新幹線用の車両、つまりE2系やE5系が北陸新幹線を走り、金沢駅に入線することはできるのかというと、それは不可能。北陸新幹線を走るには、特殊な装備・性能が必要になるのです。
日本の商用電源は、歴史的な経緯によって、東日本では交流50ヘルツ、西日本では交流60ヘルツと、東西で周波数が異なっています。今は両周波数に対応した家電が多くなり、私たちが暮らす分にはあまり気にすることはないかもしれませんが、それぞれのエリアにまたがって走る列車では事情が異なります。両区間を直通する場合には、車両か地上設備での対応が必要になるのです。
北陸新幹線では、軽井沢~佐久平間、上越妙高~糸魚川間、糸魚川~黒部宇奈月温泉間で、架線に流れる電気の周波数が切り替わります。そのため、軽井沢駅より西へ入線する車両には、50ヘルツと60ヘルツの双方に対応するための機器を搭載する必要があります。
現在活躍するE7系・W7系では、両周波数に対応する機器をもちろん搭載。線路や信号などの状態を確認する試験車「East i」も、両周波数に対応しています。また、2017年に引退した北陸新幹線用のE2系(N編成)でも、両周波数の対応機器を搭載していました。
そのほかのE5系やE6系などは、60ヘルツに対応した機器は搭載していないため、金沢駅への乗り入れは不可能。東北新幹線向けのE2系(J編成)も、現在残るのは60ヘルツ対応機能を省略した1000番台のみのため、北陸新幹線の走行はできません。
加えて、北陸新幹線の高崎~軽井沢間では、在来線時代は66.7パーミルの急勾配を有していた「碓氷峠」越えがあります。新幹線では在来線よりも勾配は緩やかですが、それでもE7系やW7系、引退したE2系N編成などは、急な勾配を通過するための性能が確保されています。
なお、軽井沢エリアは一般家庭には60ヘルツの電気が供給されていますが、新幹線は軽井沢駅までが50ヘルツ。これは、軽井沢駅発着の臨時列車運転を考慮したものだったとか。事実、すでに引退したE4系「Max」には急勾配対策がなされた編成が4本あり(うち2本はさらに複数の周波数にも対応)、これによる臨時の「Maxあさま」が運転されたことがありました。
さらに余談ですが、東海道新幹線は富士川以東で50ヘルツ区間を走行しているものの、車両側は60ヘルツのみ対応となっています。これは、変電所などの地上側で周波数を変換しているため。1964年の新幹線開業当時、車両側で2つの周波数に対応するのは技術的に困難とされたため、地上側で対応することになったそうです。