多くの路面電車では、道路上では道路の中心を走ります。つまり、自動車の上下車線の間に線路が敷かれているわけですが、この配置で問題となるのが交差点。右折しようとした自動車が、後ろから走ってきた路面電車に気付かずに衝突してしまう事故が、全国で発生しているのです。
2023年8月開業の「芳賀・宇都宮ライトレール」では、これまでに路面電車が走っていなかった場所で新たに運行を始める路線。このため、自動車のドライバーは路面電車に慣れているとは言えず、このような事故が発生してしまうおそれがあります。そこで芳賀・宇都宮ライトレールでは、信号機に「右直分離方式」という表示方法を採用しています。
この方式が採用されている交差点では、路面電車と並走する道路に対し、「直進+左折の矢印(+路面電車用の信号)」→「黄色」→「右折の矢印」→「黄色」→「赤」というサイクルで表示されます。道路信号の矢印は、その方向に向かう車両(自動車など)は進むことができる、という意味。つまり、直進(路面電車を含む)・左折と右折の表示をわけて出すことで、路面電車と右折する自動車が衝突しないようにしているのです。
この右直分離方式は、東京や名古屋などの交通量が多い都市のほか、富山などの他の路面電車が走る街でも採用されています。しかし、他の路面電車の場合は、鉄道コムの調べによると、交通量が多いなどの一部の場所でのみ採用されている様子。宇都宮では他の路面電車よりも導入交差点の割合が高く、安全性をさらに追求したものとなっています。
ちなみに、芳賀・宇都宮ライトレールが走る区間の信号では、青の矢印信号に加えて、黄色の矢印信号も表示されます。こちらは、自動車ではなく路面電車用の信号です。道路信号や交通標識とともに、教習所で必ず習う内容なので、ドライバーの皆さんは絶対に知っているはず……なのですが、これまで実物を見たことがなく忘れてしまった人を想定してか、宇都宮の路面電車用信号には、親切にも「電車用」の補助標識が付けられています。
さらに余談ですが、路面電車が直進することができる信号の表示は、路面電車用の黄色信号のほかに、自動車用と同じ青信号があります。ただし青の矢印の表示は、自動車や自転車などの「車両」が対象。これには路面電車は含まれていないため、右直分離方式を採用した交差点では、車両用の直進矢印のほかに、路面電車用の直進矢印も表示するようになっているのです。