日本の鉄道運賃は、実際の距離(実キロ)を基に設定した「営業キロ」によって計算されます。この営業キロは、スイッチバックや上下線での距離の違い、設定後の線路付け替えなどの影響で多少は前後するものの、在来線ではおおむね実キロに沿った数値となっています(地方交通線用の「擬制キロ」など、例外も数多くあります)。
しかし、新幹線の営業キロと実キロ(または建設キロ)を比べてみると、両者には大きな隔たりがあります。たとえば、東海道新幹線の東京~新大阪間の場合、営業キロは552.6キロなのに対し、実キロは515.4キロ。40キロ弱の差が生まれています。
このような差が生まれているのは、運賃の取り扱いを簡単にするため。新幹線の線路はできるだけ距離が短くなるよう敷設されているので、実キロは在来線よりも短くなるのが普通です。しかし、新幹線はもともと、在来線の補完として整備された路線なので、運賃は新幹線と在来線で揃えた方が良いとされました。これによる恩恵として、新幹線経由の乗車券と在来線経由の乗車券は互換性が生まれ、旅客の利便性も向上しています。たとえば、東京~名古屋間の全区間で東海道新幹線を経由すると書かれている乗車券でも、同じ区間の在来線に乗車できるのです。
とはいえ、新幹線に乗車する際は、本来より高い運賃を支払っている、と考える人もいるかもしれません。実際、国鉄時代にこれを裁判所に訴えた人がいました。1975年に提訴された「新幹線運賃差額返還訴訟」では、第一審の東京地方裁判所は、原告側の主張を認め、国鉄に「差額を返還せよ」との判決を下しました。国鉄が控訴した第二審では、営業キロの設定は国鉄の裁量の範囲内であるとして、国鉄勝訴の判決に。原告は最高裁判所に上告しましたが、これは棄却され、国鉄の勝訴が確定しました(最判昭和61年3月28日集民第147号467頁)。
ちなみに、新幹線と並行する在来線がJRから経営分離された区間では、新幹線では実キロに基づいた営業キロを設定しています。たとえば、2024年4月に延伸開業した北陸新幹線の金沢~敦賀間では、実キロ・営業キロとも125.1キロ。かつての北陸本線(現在のIRいしかわ鉄道線・ハピラインふくい線)の130.7キロよりも短くなっており、運賃に限れば在来線時代よりも安くなっています。
興味深いのが、北陸新幹線の軽井沢~上田間。北陸新幹線の並行在来線である信越本線は、新幹線開業時の経営分離でしなの鉄道線となったのですが、同区間では、在来線の営業キロ40.0キロに対し、新幹線の営業キロは42.4キロと、わずかに長くなってしまいました。ルールが変わっているわけではないのですが、新幹線はこの区間で佐久平駅へと大きく南に迂回しているため、在来線よりも距離が長くなってしまったのです。