都市部を走る多くの電車では、全てのドアから乗り降りできることが一般的です。一方、車内で運賃を収受する路面電車の場合は、前払いの路線で多い「前乗り後降り」、後払いの路線でよく見られる「後乗り前降り」の方式を採用していることがほとんどです。
一方、広島で路面電車を運行する広島電鉄では、いわゆる「信用乗車方式」として、「ICカード全扉乗降サービス」を提供。「PASPY」などのICカードの利用者に限り、どのドアからでも乗り降りできるようになっています。
信用乗車方式とは、駅に改札口を設置せず、乗客がきっぷを正しく購入し乗車するというモラルを期待するもの。主にヨーロッパで採用されています。その仕組み上、きっぷを購入せずとも列車に乗車できてしまうので、無賃乗車のリスクが生まれてしまうシステムなのですが、これを導入するヨーロッパなどの鉄道会社では、抜き打ちの検札と高額な罰金によってこれを抑止しています。たとえば、フランスのパリ交通公団では、きっぷを持たずに乗車したことが発覚した場合は50ユーロ(2023年8月現在のレートで約8000円)と、きっぷを購入しないと結果的に損となるような大きなペナルティを課しています。
信用乗車方式を日本で初めて導入したのは、2006年に開業した富山ライトレールでした。同社では「後乗り前降り」を基本としていたところ、ICカード利用時に限り後扉からの降車が可能となっていました。日本では先進的な取り組みでしたが、残念ながら、2020年の富山地方鉄道市内線との接続を機に廃止されています。
現在実施している広島電鉄の場合は、1000形「GREEN MOVER LEX」と、30メートル級の連接車両が対象。同社の連接車両では、運転士の他に後方車両に車掌が乗務し、後ろ側の扉での運賃収受を実施しています。さらに全扉乗降サービスでは、全ての扉にICカード用のリーダーを設置することで、車掌がいない従来の乗車専用扉からでも降車が可能となっています。
さらに、8月26日開業の「芳賀・宇都宮ライトレール」でも、ICカード利用時の全扉乗降が可能。こちらは、30メートル級車両によるワンマン運転路線では、日本で初めての事例ということです。さらに28日には、広島電鉄が一部区間で30メートル級連接車両でのワンマン運転を開始する予定。日本の東西で、長大編成の路面電車によるワンマン信用乗車が始まります。
路面電車における信用乗車方式導入のメリットは、乗降時間の短縮につながること。これまでのように、運転席横の運賃箱で運賃を収受していると、乗車(降車)列は1列となるので、乗降に時間が掛かってしまいます。ICカード利用者のみとはいえ、全扉での乗降を可能とすることで、ボトルネックを解消する狙いです。