「葛飾」と聞いて多くの人がイメージするのは、東京都の葛飾区ではないでしょうか。東京の北東に位置する葛飾区は、マンガ・アニメ「こち亀」こと「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や、映画「男はつらいよ」などで、人情味あふれる下町のイメージが定着しています。
葛飾区内を通る鉄道路線は、常磐線や京成線など。金町駅や亀有駅、京成高砂駅などが区内の所在駅です。2023年現在、「葛飾駅」という駅は存在しませんが、かつては京成本線の路線上に、この名前を名乗る駅名がありました。しかし、この駅が存在したのは、葛飾区ではなく、なんと千葉県内でした。
京成の葛飾駅は、1916年12月に開業。駅名は、当時の周辺自治体である葛飾町から採ったものでした。その後、自治体の合併により、葛飾町は消滅。同駅の南側にできた国鉄(現:JR東日本)、営団地下鉄(現:東京メトロ)の駅名が周辺地名にも付けられると、葛飾駅の名称は実状とズレが生じ始めます。そして1987年、同駅は現在の駅名に改称し、「葛飾駅」という名称は消滅しました。
この駅の正体は、現在の京成西船駅。そう、かつては千葉県の船橋市も、葛飾と呼ばれる地域だったのです。
葛飾という地名は、「万葉集」などにも見られる、古くから使われてきたものです。律令制の時代には「葛飾郡」が置かれましたが、この範囲は、現在の東京都葛飾区のみならず、千葉県市川市や船橋市、埼玉県杉戸町、茨城県五霞町(いずれも現在の地名)にまたがる、広大なものでした。時代が下り、明治に入ると、葛飾郡は南葛飾郡など5つの郡に分割され消滅。南葛飾郡の一部が、1937年に東京市に編入され、現在の葛飾区に至っています。
現在の葛飾区以外の地域でも、かつての葛飾という地名の名残は残っています。たとえば、東葛飾郡に含まれていた千葉県西部では、「東葛飾」や「東葛」(とうかつ)という名称が使われることが。また、東京都東部の「葛西」という地名も、もとは「葛飾の西(部)」という意味でした。
先の京成線葛飾駅、現在の京成西船駅周辺でも、葛飾小学校や葛飾公民館など、古くから伝わる地名を残す施設がまだまだ存在しています。知名度だけでいえば、1958年開業の西船橋駅や、これを略した「西船」の方が上なのですが、伝統ある地名も、地域に根強く残っています。