西武鉄道が「サステナブル車両」の導入と称し、東急電鉄と小田急電鉄から中古車両を導入することで、SNSなどではファンの驚きの声が多数見られました。大手私鉄が、同じエリアの大手私鉄から中古車両を導入するというのは、きわめて珍しい事例といえましょう。
しかし、約10年前には、大手私鉄が自社グループの中小私鉄から中古車両を導入したという、これに勝るとも劣らぬぶっ飛んだ譲渡劇がありました。
その譲渡劇の主役は、南海電気鉄道の3000系。元・泉北高速鉄道の3000系で、現在も同線に残っている車両は、南海高野線への直通運転などに運用されています。南海には2013年、本線向けの車両として8両編成と6両編成が1本ずつ譲渡されました。中小規模の鉄道会社が大手の鉄道会社へ車両を譲渡したケースとして、ほかにはJR東日本に渡った東京臨海高速鉄道(りんかい線)の車両などがありますが、やはり珍しい事例ではあります。
南海が泉北の中古車両を導入したのは、環境への意識……よりも大きな目的として、旧型車両(7000系)の早急な置き換えがありました。当時、7000系は老朽化が進んでおり、速やかな置き換えが求められていました。新型車両の導入を急ぐとともに、比較的状態のよい車両をかき集め、7000系の代替に充当したのです。現在、南海本線には車体長の短い2扉の車両(南海の一般車両は、基本的に4扉)が走っていますが、これも元々は7000系の置き換えを進めるべく、高野線の余剰車両を転用したもの。7000系の置き換えに躍起になっていた当時の事情から、このような車両導入が繰り広げられたのです。
あれから10年。泉北高速鉄道では2023年に、新型車両の9300系がデビューしました。これにより、同社に残る3000系の置き換えが発生するものと思われます。そして南海では、6000系(高野線所属)と7100系(本線所属)の置き換えが進行中。この状況下、置き換えられた泉北3000系がまだ使えそうな状態であれば、またしてもこれを導入……は、さすがにないと思いますが……。