西武鉄道の特急列車の歴史は、1969年の西武秩父線開業とともに始まりました。西武の初代特急車両は、「レッドアロー」の愛称を持つ5000系。この形式は既に西武線からは引退していますが、富山地方鉄道に譲渡された車両として、今も現役の姿を見ることができます。
富山地方鉄道に譲渡された元レッドアローは、16010形という形式。1995年と1996年に、3両編成2本が導入されました。ただしこの形式、車体は西武から譲渡されたことに間違いはありませんが、西武5000系をそのまま譲受した、というわけではありません。
車体こそ西武時代のままな16010形ですが、マスコンなど運転台の一部機器は、なんと京急の旧1000形の廃車発生品。このほか、モーターや主制御器、台車は485系、制動装置(ブレーキ)は営団地下鉄(現:東京メトロ)3000系などと、さまざまな車両の部品を組み合わせて改造されました。仮に今、車体を別のものに載せ替えてしまえば、元はどの形式だったのかわからなくなる状態です。
このように多数の形式の部品を組み合わせる必要があったのは、西武が5000系の走行機器類を10000系「ニューレッドアロー」に流用したため。10000系に置き換えられた5000系ですが、5000系の機器類は西武で有効活用されていたのです。
そんな「魔改造」によって生まれた16010形は、デビューした後、2両編成でも走行可能となるよう追加改造が実施されました。その後、中間車の1両は廃車されてしまいましたが、残りの5両は今も活躍中です。うち3両は、水戸岡鋭治さんがデザインした「アルプスエキスプレス」となり、内装がリニューアルされています。
さらに富山地方鉄道では、西武10000系を譲受のうえ、20020形として、2022年に営業運転を開始しました。現在は、機器流用元である西武5000系と、機器流用先である西武10000系が、ともに関東から遠く離れた富山の地で活躍するという、不思議な状況が生まれています。