都市部の鉄道では、新型車両と入れ替わりで引退した旧型車両が、地方の鉄道に払い下げられて第2の人生を歩むことは珍しくありません。その際、基本的には、台車なども含めた車両のすべてを譲渡することが多くなっています。しかし、諸事情により車体と台車を別々に用意し、それらを組み合わせて就役させることもあります。
その形態で譲渡された車両の一例が、京王帝都電鉄(現・京王電鉄)の初代5000系。1963年にデビューした18メートル級の車両で、2023年で還暦を迎えます。車体のデザインは、クリーム色にエンジ色のラインを採用。グリーン系だった京王の電車のイメージを大きく変えた5000系は、デビューの年に登場した特急列車を中心に充当され、京王のイメージアップに貢献したとされています。
5000系は、1996年の引退に前後して、一部の車両が地方私鉄に譲渡され、それぞれが新天地での運用を開始します。が、同形式の譲渡にあたり、台車はその対象外とされました(一部の例外を除く)。5000系を直接譲渡した4社について、それぞれの台車の供出元を見てみましょう。
- 一畑電気鉄道(現・一畑電車):営団地下鉄(現・東京メトロ)3000系
- 伊予鉄道:東武2000系、小田急2200形など
- 高松琴平電気鉄道(ことでん):京急旧1000形
- 富士急行(現・富士山麓電気鉄道):営団地下鉄3000系
台車だけ別の車両から調達した理由は、線路の幅。上記各社の線路幅は、ばたでん(一畑)、伊予鉄、富士急の3社が1067ミリ(いわゆる「狭軌」)、ことでんが1435ミリ(いわゆる「標準軌」)ですが、京王線の線路幅は1372ミリと、そのどちらとも異なります。線路の幅が違う以上、そのままでは譲渡先の路線を走れません。そのため、台車を別の廃車発生品と交換し、線路幅を合わせたのです。ただし、伊予鉄への譲渡車のうち、モーターを搭載しない車両の多くは、京王時代の台車を改造して導入しました。5000系で数少ない、車両を丸ごと譲渡した例です。さらに、これらの一部は譲渡先での役目を終えたのち、銚子電気鉄道、岳南電車などへの再譲渡も経験しています。
いよいよ還暦を迎え、大御所の域に達しつつある5000系。ですが、富士急では置き換えが進み、現役の車両は2本だけ。また、伊予鉄では新型車両の導入による置き換えが発表されているほか、ばたでん、ことでんも今後の計画の中で車両更新の予定があります。大切に使われてきた彼らも、いよいよその先行きに暗雲がかかってきた感があります。