東京郊外をぐるっと一周する武蔵野線は、府中本町~西船橋間の路線として案内されています。しかしこの路線には、一般旅客があまり乗る機会のない、「隠れた区間」が存在します。
武蔵野線はもともと、東京中心部を走る貨物列車を郊外にう回させるために建設された貨物線でした。現在では、多くの区間で旅客列車が運転されていますが、一部は当初の計画通り、ほぼ貨物列車の専用線となっています。この貨物専用線は、旅客列車の起点となる府中本町駅より南側、鶴見~府中本町間の約28キロ区間。通称「武蔵野南線」と呼ばれる区間です。
鶴見駅で東海道本線などとわかれた武蔵野南線は、そのまま横須賀線の線路(東海道貨物線、通称「品鶴線」)と並走し、武蔵小杉駅の南側でトンネルに入ります。ここから府中本町駅までは、貨物駅などでわずかに外に出る以外は、ほとんどの区間がトンネル。文字通り「隠れた区間」となっています。
武蔵野南線は、れっきとしたJR東日本の路線ですが、定期旅客列車は運転されておらず、日常的に走るのはJR貨物の貨物列車のみです。過去には旅客化が検討されていましたが、最終的に断念されています。
とはいえ、一般旅客が乗る機会が全くないわけではありません。そのチャンスは限られますが、団体臨時列車や、特急「鎌倉」などの多客臨時列車が、この武蔵野南線を経由して運転されています。
貨物線として計画された武蔵野線には、武蔵野南線の他にも、中央線立川方面と武蔵野線東所沢方面、東北本線大宮方面と武蔵野線各方面、常磐線各方面と武蔵野線東所沢方面をそれぞれ連絡する、貨物列車のために作られた短絡線があります。このうち、常磐線との短絡線だけは定期旅客列車が運転されていませんが、その他の短絡線は「むさしの号」「しもうさ号」という定期列車が運転されています。