ここ数年、「Suica」や「ICOCA」などの交通系ICカードを活用したフリーきっぷが増えています。2017年に東京メトロが発売した、「PASMO」がフリーきっぷになる「東京メトロPASMO1日乗車券」(現在は「東京メトロ24時間券」に変更)が皮切りで、現在は都営地下鉄やJR東日本などでも、交通系ICカード(モバイル版含む)による割引きっぷが発売されています。
これらのICカード版のフリーきっぷは、(当たり前ですが)エリア内完結での乗車時にはチャージ残高が引かれることはありません。加えて、エリア内からエリア外へ乗り越した場合(逆も含む)には、エリア境界駅から降車駅までの運賃が自動で精算されるため、自動精算機や駅窓口で精算処理をする手間が掛からないのが特徴です。
一方で、ここ最近は新しい形の企画乗車券も登場しています。交通系ICカード(モバイル端末版を含む)を使うのは同じなのですが、フリーエリア内での乗車時にも、一旦チャージ額から通常運賃が引き去られるのです。引かれてしまった運賃分は、後日キャッシュバックあるいはポイント付与という形で戻ってくるものの、一度は乗車分全額を支払わなければいけないというのが、従来のICカードフリーきっぷとの大きな違いです。ここ最近、この方式による「フリーきっぷ」を多数発売しているJR西日本では、「ICカードにパス情報を書き込む(東京メトロなどの)方式を採用するかは、今のところ未定」(同社広報担当者)だといいます。
11月にこの方式を採用したきっぷを発表したJR東日本からは、さらに詳しい話を聞くことができました。同社の取り組みは、自動改札機を利用できる電子チケットのトライアルとしての位置づけで、12月に伊豆方面、茨城県内の2つのきっぷを発売しています。
JR東日本の広報担当者は、次のように説明します。
「Suicaにパス情報を書き込む『都区内パス』などは、フリーエリア内での利用ではチャージ額から引き去ることなく便利に利用できることを目的としているのですが、きっぷを新発売する事前準備として、エリア内外にまたがる乗車時の運賃引き去り額を計算する必要があります。このシステム設計やチェックに、膨大な時間を要していました。今回の2つのきっぷは、トライアルの商品ということで、機動的、弾力的に設定できるよう、このような形での発売としました」
利用者目線では、乗車分の運賃がいったん引き去られてしまうシステムは、場合によっては残高チャージが必要になるなど、カードにパス情報を書き込む方式よりも手間が掛かります。しかし、結果的におトクで便利な商品が数多く設定されるようになるのであれば、利用者のメリットにもつながります。