都営地下鉄の大江戸線では、最新型車両の12-600形と、1991年の路線開業時から使われている12-000形の2形式が使われています。特に12-000形は、開業時から使われているとはいっても、当初投入された車両と、1997年以降に投入された車両では、そのデザインが大きく異なります。
さらに、この12-000形では、路線開業よりさらに前の1986年に製造された、デザインが全く異なる「試作車」が存在しました。
12-000形の試作車が製造されたのは、「ミニ地下鉄」の技術検証が目的でした。大江戸線(2000年までは「12号線」)は、トンネルの小径化による建設費用の削減を目指し、従来の地下鉄よりも小さな車体を採用することが検討されていました。大江戸線の計画当時、このミニ地下鉄用の小さな地下鉄車両は国内で例がなく、これを実証するために、1986年に試作車2両編成1本が製造されたのです。落成時点で、大江戸線の線路は建設中だったため、試作車は浅草線の馬込車両基地に搬入され、ここで走行試験を実施していました。
また、現在の大江戸線では、走行用モーターに一般的なしくみ(いわゆる「回転式」)ではなく、「リニアモーター」が用いられています。しかし、製造当時の試作車は、回転式のモーターを搭載して登場。大江戸線におけるリニアモーターの採用検討は試作車の製造後のことで、試作車はこれに応じてリニアモーターの搭載改造を試験期間中に実施しました。改造後は、車両基地内に車両側のリニアモーターと対になる「リアクションプレート」を設置し、走行試験を継続しています。
肝心のリニアモーター式の地下鉄は、大江戸線より早く、1990年に大阪市営地下鉄(現:大阪メトロ)長堀鶴見緑地線が開業し、先を越された形となりました。とはいえ、12-000形試作車が、日本初のミニ地下鉄車両として開発され、実績を残したことは事実。陰の立役者であった試作車は、現在は豊島区の公園に保存され、市民の憩いの場となっています。