「新幹線のお医者さん」こと「ドクターイエロー」。東海道・山陽新幹線の線路や電気・信号設備を検査するために作られた車両で、月に数回程度、両線を走行しています。走る日は一般に発表されないことから、目撃できたら幸運が訪れるという「幸せの黄色い新幹線」とも呼ばれています。
そんなドクターイエローは、東海道・山陽新幹線の自走検測車両としては、現在の車両は3代目。2000年にデビューした923形で、JR東海が保有する同年製造の1本と、JR西日本が保有する2005年製造の1本の、計2本が存在します。
923形は、1999年に量産車が登場した700系をベースとして製造されました。しかし、そのベースの700系は、東海道新幹線からは2020年に引退。加えて、923形は最高速度が現在主力のN700系シリーズより低く、さらに製造から20年以上が経過していることから、「そろそろ引退なのでは」とのうわさがたびたび流れています。
実際のところ、ドクターイエローが引退することはあるのでしょうか。JR東海の広報担当者に聞くと、「現時点でこの先の計画については、具体的に決まったものはありません」ということ。JR西日本の広報担当者も「引退は未定」「時期がきましたらお知らせいたします」と説明しています。
では安心……とするのは早計です。JR東海では、「のぞみ」などに使用する営業用のN700Sの複数編成に、線路、信号、架線の状態を監視する装置を搭載し、1日に何度も状態を確認できる体制を整えています。営業車がドクターイエローの代わりになることで、ドクターイエローは不要になってしまうのでは……という疑問が浮かびます。
この疑問に対し、JR東海の広報担当者は、「営業車での検測精度はドクターイエローとほぼ同等」としつつ、「営業車検測ではドクターイエローで行っている全ての検査はできません」と説明してくれました。営業車の検測設備は、高頻度で設備の状態を把握し、早期に異常を検知することが目的。これはこれでメンテナンス改革につながる仕組みではあるのですが、まだまだドクターイエローの役割を代替できるわけではないようです。
とはいえ、たとえば九州新幹線においては、ドクターイエローのような検測専用の新幹線車両はなく、営業車に搭載した検測装置で設備の状態を監視しています。今後さらに技術が進歩すれば、ドクターイエローのような専用車は不要になるのかもしれません。JR東海の広報担当者は「ドクターイエローと営業車の役割分担については、今後あるべき姿を検討していきます」と説明しています。