鉄道コム

鉄道コらム

阪神なんば線の夢に破れた「赤胴車」がいた 計画頓挫に弄ばれし日陰者・8901形

2024年2月11日(祝) 鉄道コムスタッフ 井上拓己

阪神の西大阪線が近鉄難波駅(現:大阪難波駅)まで延び、「阪神なんば線」として新たなスタートを切ったのが、2009年3月。この春で開業15周年を迎えます。当時、阪神側は新形式である1000系の新造のほか、9000系の改造を進め、期待の新線の開業に向けて、準備を進めていました。

ですが、それ以前にも、難波延伸を見据えて作られた車両がいたことはご存知でしょうか。「8701-8801-8901形」(以下、「8901形」)と呼ばれた形式です。

「春の選抜高校野球大会」の看板を掲げ、特急運用に就く阪神8901形。じつは難波延伸を見据えて製造された車両でした
「春の選抜高校野球大会」の看板を掲げ、特急運用に就く阪神8901形。じつは難波延伸を見据えて製造された車両でした

この車両は、1974年に製造された「3801-3901形」(以下、「3901形」)が源流。当時の標準である「赤胴車」のスタイルながら、他形式にはない抑速ブレーキを備えていました。これは、西大阪線が難波へ延伸した際、西九条~九条間にできる急勾配に対応するためとされています。つまり、当時の阪神は、現在の1000系などと同じ役目を、この3901形に託していたのです。もし、近鉄線への乗り入れがもっと早く実現していれば、赤胴車が奈良エリアを走る姿が見られたことでしょう。

4両編成3本が製造され、ひとまず本線の運用に投入された3901形ですが、肝心の難波延伸は遅々として進まず。せっかくの装備を持て余した状態で走る日々が続きました。同形式の転機は1986年。故障の多かった1本が廃車され、残った2本(8両)を6両編成と2両編成各1本に組み替え、形式を変更したのです。これで生まれた6両編成が、8901形です。

一度は頓挫した難波延伸の計画が息を吹き返したのは、2000年代に入ってから。このとき、直通には新型の1000系などが充当されることになり、8901形に直通列車を担当させることはありませんでした。結局、同形式は2009年2月に廃車。当初の目的であったなんば延伸線の開業を待たずに、ひっそりと姿を消したのでした。

ちなみに、1986年の編成替えで生まれた2両は「7890形」に形式を改め、2020年6月の引退まで、武庫川線専用で運用されました。現在、このうち1両(7890号車)が、武庫川団地内の敷地内に保存されています。この車両が、かつて難波延伸への期待を背負った車両の、唯一の現存車両です。

武庫川団地の敷地内に安住の地を得た7890号車。かつて難波延伸を夢見た3901形の、唯一の生き残りです
武庫川団地の敷地内に安住の地を得た7890号車。かつて難波延伸を夢見た3901形の、唯一の生き残りです

鉄道コムの最新情報をプッシュ通知でお知らせします無料で受け取りますか?

関連鉄道コらム

鉄道コムおすすめ情報

画像

ラストランは2月10日

「青胴車」5001形は2月10日にラストラン。引退前の「乗車会」開催や、引退記念グッズ発売も。

画像

「T4編成」展示へ

1月で引退の「ドクターイエロー」T4編成、先頭車がリニア・鉄道館で保存へ。6月に展示開始予定。

画像

幻の東京圏「改良計画」とは?

1950年代の国鉄は、東京圏を今と違った形に改良する計画を持っていました。その中身とは?

画像

「サステナ車両」5月デビュー

元小田急の西武8000系が、車両基地を出場。デビューは2024年度末から2025年5月末に変更。

画像

撮影スタイルとレンズ選び

撮影スタイルにあったレンズ選びについて、プロカメラマンが解説! 今回は、標準~望遠・超望遠レンズ編です。

画像

1月の鉄道イベント一覧

2025年も鉄道コムをよろしくお願いします。1月の計画立案には、イベント情報をどうぞ。

画像

イベント投稿写真募集中!

鉄道コムでは、臨時列車や基地公開など、さまざまなイベントの投稿写真を募集中! 投稿写真一覧はこちら。