2009年3月、阪神西大阪線が大阪難波駅まで延び、「阪神なんば線」として新たなスタートを切りました。現在、同線内の一部の駅を通過する速達列車として快速急行が設定されていますが、この列車、この区間を走る速達列車としては2代目の存在です。阪神なんば線になる前は各駅停車が走るのみだった西大阪線ですが、半世紀ほど前には、短命に終わった初代の速達列車がありました。
その列車は「西大阪線特急」。通称「N特」とも呼ばれ、1965~74年のわずか9年間だけ、日中の時間帯を中心に運転されていました。
西大阪線特急の運転区間は、元町(のちに三宮に変更)~尼崎~西九条。終点の西九条駅で大阪環状線に接続し、神戸と大阪の南エリアを短絡することが、当列車の大きな目的だったと言われています。途中の停車駅は、西宮、尼崎の2駅のみ。そして、三宮~西九条間の所要時間は、なんと約25分!現在の阪神なんば線快速急行が、同区間で33分程度かかっていることを考えると、その速さがうかがえます。
ですが、この西大阪線特急、利用はそれほど伸びなかったようです。一時は4両編成が使われた同列車も、最終的には2両編成に短縮されていたといいます。結局、1974年に廃止され、西大阪線の速達列車の歴史は短期間で幕を降ろすことになりました。
その後、1983年には、本線の梅田~三宮間に新たな速達列車「快速急行」が登場します。途中の停車駅は、野田、尼崎、甲子園、西宮の各駅。西宮~三宮間はノンストップ(上りのみ青木駅に停車した時期あり)で、廃止された西大阪特急を思わせるような停車駅の設定になっていました。その後、複数回の停車駅変更を経験しながらも快速急行は走り続け、2009年、阪神なんば線開業とともに、同線を通る速達列車に。一度は途絶えた西大阪線の速達列車の歴史が、路線と種別の名前を変え、35年の時を経て再び動き出したのです。
それから15年、快速急行は阪神なんば線を介した神戸三宮~近鉄奈良間の最速達種別として、現在も運転されています。一部で見られる10両編成の列車は、いまや阪神最長の編成です。2両編成の細々とした運用から、最大10両編成のフラッグシップへ。その礎となった西大阪線特急も、快速急行の躍進を見て、喜んでいるに違いありません。