神戸市兵庫区の新開地駅を起点に、六甲山系の山越えに挑む神戸電鉄(以下「神鉄」)。同社の運転形態は、「普通」「準急」を主体に、ラッシュ時間帯には有馬・三田線系統に「急行」と「特快速」が追加されるというもの。現在の最速達種別は特快速ですが、かつてはこれを上回る速達種別「特急」が走っていたこともありました。
神鉄は1988年4月、有馬・三田線系統に急行の上位種別に特急を設定するとともに、最高速度を引き上げました。同月、谷上~新神戸間で北神急行電鉄(現在の神戸市営地下鉄北神線)が開業し、同区間を約8分、谷上~地下鉄三宮間を約10分で結ぶようになります。神鉄は、特急の運転とスピードアップにより、圧倒的な速さを武器とする北神急行に対抗したと考えられます。
特急は途中、横山・道場南口・岡場・有馬口・谷上・山の街・北鈴蘭台・鈴蘭台・湊川の各駅に停まり、谷上~湊川間の停車駅は急行と同様。三田~新開地間を最速47分、谷上~新開地間を最速23分で結びました。さすがに谷上~三宮間では北神急行に敵いませんが、谷上~湊川間(神鉄と地下鉄の接続駅で、地下鉄は湊川公園駅)でみると、神鉄の特急が22分、北神急行・地下鉄経由で15分です。当時は北神急行と地下鉄が別運賃となっており、その高さを考えると、通しの運賃で行ける神鉄を選ぶ余地もあったと思われます。
ですが、特急は運転本数が少なく(最盛期でも1日4往復)、さらに「三田線内の特急通過駅が不便になる」という欠点がありました。当時の三田線は全区間が単線で、列車の行き違いなどの関係上、運転本数は1時間あたり4本が上限でした。そのため、特急通過駅に停まる下位種別の追加運転ができず、該当する駅では特急が走るぶん本数が減る、待ち時間が増えるなどの不便を強いられたのです。
そのためか、神鉄は1991年に快速(三田~有馬口間の各駅に停車)を設定し、三田線の特急通過駅救済に出ました。1995年には、一部の快速が特快速(三田~岡場間は各駅停車、岡場~谷上間無停車)に格上げされています。なお、岡場駅以南の速達列車通過駅は、道場南口駅または有馬温泉駅発着の下位種別が走り、本数の減少を回避しています。
特急はその後もしばらく残ったものの、1998年のダイヤ改正で廃止。10年間の短い命で幕を降ろし、現在は行先表示幕にその姿を残すのみです。
近年の神鉄は、ラッシュ時の速達列車が縮小傾向にあります。実際、岡場~谷上間における特快速と各駅停車の所要時間の差は5分程度と、速達効果も大きくはありません。通過駅救済の列車を別に走らせるくらいなら、最初から各駅停車のほうがよいという判断でしょうか。そのため、時刻表に書かれた便数は、年々寂しくなる一方。「かつての神鉄」をもう一度見たいと願うのは、筆者だけでしょうか。