日本の鉄道車両の多くは、横浜や豊橋、神戸など、国内各地にある鉄道車両メーカーで製造されています。ここで生まれた車両を鉄道事業者に「納品」する方法には、複数の手段が使われています。
まず簡単な方法は、線路の上を走らせて車両を届けるもの。もともとレールの上を走るために作られた機械なのですから、これが一番効率的です。とはいえ、車両メーカーの工場と納品先の鉄道事業者との間で直接レールが繋がっていることはまれですから、その間はJR貨物などの機関車がけん引することが一般的です。この方法は「甲種輸送」と呼ばれ、車両そのものを貨物扱いとして、JR貨物が送り届けるという仕組みです。デビュー後は通らない場所を走る車両が見られることから、撮り鉄には人気の被写体です。
メーカーと納品先で直接レールが繋がっていることはまれ、と説明しましたが、総合車両製作所横浜事業所と京急、同新津事業所とJR東日本、近畿車輛とJR西日本などのように、中にはレールが接続している場所もあります。そのような場合は、JR貨物などが間に入ることなく、車両が自走で工場を出場することもあります。また、総合車両製作所横浜事業所を出場したJRの新車は、逗子駅まで専用車両などにけん引された後、同駅から自走で回送されることがあります。
一方、レールが繋がっていない場合は、トレーラーが使われます。レールでの輸送の場合、1編成まるごと、時には複数編成を束ねて回送できますが、トレーラーでは1台に1両しか載せられず、複数台が連なってしまうと交通の邪魔となってしまうので、1日に2台程度が限度。しかし、他の路線と繋がっていない会社へ車両を輸送するには、この方法しかありません。甲種輸送で運ばれた車両も、最寄りの駅から車両基地までトレーラーで運ばれることもあります。
また、中には船で運ばれるケースもあります。新幹線の車両(ミニ新幹線用を除く)は、在来線よりも車体が大きく、現在では甲種輸送はできません。トレーラーも、新幹線車両を載せての長距離輸送には向きません。そこで、他の手段が向かない長距離では、新幹線は船に載せて運ばれるのです。また、西日本鉄道の新車は、関西のメーカーで製造された後、トレーラーごと長距離フェリーに乗り、九州へと運ばれています。
レアなケースでは、飛行機で運ばれてきた車両もありました。広島電鉄の5000形「グリーンムーバー」は、ドイツのシーメンスで製造された輸入車両。第1編成は1999年、ロシアの大型輸送機に積載され、広島空港へと降り立ちました。これは納期の関係だったといい、第2編成以降は船便で日本へ送られています。