電車がとまっている状態から発進する際の数値は、「起動加速度」として表されます。その数値が日本一高いことで知られるのは、阪神電車の「ジェットカー」。同社の各駅停車用の車両で、5500系列や5700系のそれは、最大で4.0km/h/s(1秒間に時速4キロの加速が可能な性能)。旧型の5001形では4.5km/h/sにもなります。駅を出るとき、加速の力に引っ張られて一斉に大きく揺れ動く吊り革は、見ていて壮観ですらあります。
ですが、ほかにも、このジェットカーに劣らぬ起動加速度を持つ車両が複数います。そのひとつが、箱根登山電車の車両。最新の3000形「アレグラ号」をはじめとする各車両の起動加速度は、こちらも4.0km/h/s。阪神ジェットカーと理論上はタメを張れる、高い加速度を持つのです。
登山電車の加速度が高いのは、険しい山道を走行することが大きな理由。最大80‰(1000メートルの距離で80メートルの高低差がある勾配)という急な坂を登れるよう、低速域の加速力を高めているのです。自転車のギアが低い方が、平坦な場所での加速が高く、上り坂を走りやすい傾向にあることと、理論は同じです。ただ、坂が多く、最高速度も低い登山電車では、ジェットカーのような加速を披露する場面はほぼありません。
ほか、鉄の車輪を使わないタイプの鉄道では、札幌市交通局南北線、湘南モノレール、愛知高速交通(リニモ)の車両が、4.0km/h/sの起動加速度を持っています。札幌市交通局と湘南モノレールは、走行輪にゴムタイヤを使用。鉄の車輪よりも粘着性能が高く、加減速性能を高められるのです。とくに湘南モノレールは最大74‰と、登山電車に匹敵する急な坂があります。鉄の車輪とレールでは苦戦する急坂も、ゴムタイヤを使うモノレールではスイスイと進みます。
リニモの車両は、走行用の装置にリニアモーターを採用。磁力で車体を浮かせ、走行する仕組みです。車輪とレールの接触がなく、加速度を高めることができるのです。車両は最大70‰の坂を登れる性能を持っているといいます。
阪神ジェットカーと同等の性能を持つ車両が複数いるとなると、筆者としては、それらが並走する姿をちょっと見てみたいな、と思ってしまいます(叶わぬ夢であることは百も承知ですが)。とくに、ジェットカーと登山電車はともに一般的な鉄輪式の鉄道車両で、線路の幅、対応する架線電圧(直流1500ボルト)も同じ。理論上は、互いの線路を走ることもできます。両者がどの速度までタメを張るのかなど、妄想が進むのは、鉄道マニアの性でしょうか。