石川県の加賀温泉駅は、3月16日の北陸新幹線金沢~敦賀間延伸開業で、新幹線の停車駅となります。同駅は、名前の通り「加賀温泉郷」のアクセスに使われる駅。駅前からは、片山津温泉、山代温泉、山中温泉に向かう路線バスが運行されています。
晴れて新幹線駅となる加賀温泉駅ですが、もとは優等列車が停まらない、小さな駅でした。それが、傍から見れば「棚ぼた」と呼べるような経緯によって、現在の地位を獲得したのです。
1944年に開業したこの駅は、開業時は作見駅という名前でした。隣の駅は、西側が(現在の)加賀市中心部にある大聖寺駅、東側が片山津温泉に近い動橋駅。ともに優等列車の需要がある駅でした。
1961年、北陸本線を走る初の特急列車「白鳥」が運転を開始した際、大聖寺駅と動橋駅で、停車駅の争奪戦が繰り広げられます。この際は上下で停車駅をわけるという形で決着したものの、特急列車が次第に増えていく中で、両者の争奪戦も激化していきました。
今の感覚では「どちらも停めればよいのでは」となりますが、当時は鉄道がまだまだ長距離移動の主役だった時代。停車駅を増やせばスピードアップの弊害=所要時間の増加となったため、当時の国鉄としては停車駅選定は悩みどころだったのです。
1984年刊行の「石川県史 現代篇 5」によると、国鉄では停車駅を動橋駅へまとめるという提案もしたそうですが、地元の反対に遭い頓挫。最終的に、小駅だった作見駅の付近に新たな駅を建設し、特急の停車駅をここへ統合するという方針が打ち出されました。国鉄では、当初は1969年の開業を目指していたといいますが、こちらも地元の反対によって延期に。しかしながら、最終的に駅の建設は進められ、作見駅を改称する形で、1970年に加賀温泉駅が誕生しました。
以降、大聖寺駅と動橋駅は、特急の主要停車駅から外され、その立ち位置は加賀温泉駅に取って代わられました。そして、北陸新幹線の延伸開業によって、開業時は小駅だった加賀温泉駅が新幹線駅となる一方、かつて優等列車が停まる主要駅だった大聖寺駅と動橋駅は、第三セクターに移管される駅の一つとなってしまいました。
実際のところ、加賀温泉駅の建設時には、地元住民が土地を提供するなどの貢献があったそうで、何もせずに「棚ぼた」で加賀温泉駅が栄えたというわけではありません。しかし結果的に、不幸にも距離が近かった主要駅間で停車駅争奪戦が繰り広げられたことで、その後の駅の明暗もわけられてしまいました。