JR九州の動態保存SL列車、「SL人吉」。1988年に「SLあそBOY」として復活した8620形58654号機がけん引する列車ですが、車両老朽化や部品調達などの課題があることから、2024年3月24日をもって、運転を終了することとなりました。
「SL人吉」をけん引する8620形は、1914年に登場した国産蒸気機関車。旅客用機関車として672両が製造されました。当初は東海道本線のような幹線に投入されていましたが、後にはローカル線でも活躍しています。引退は1975年。国産蒸気機関車の黎明期から蒸気機関車の終焉間際まで活躍した形式で、ファンからは「ハチロク」という愛称で親しまれていました。
ところで、「ハチロク」という愛称は、蒸気機関車だけでなく、飛行機やクルマなど、他の乗り物にも付けられていました。
飛行機の「ハチロク」は、戦闘機のF-86。アメリで開発された機体で、初飛行は1947年。米軍のほか、主に西側諸国の空軍で採用されていました。日本でも航空自衛隊が採用しており、後に「最後の有人戦闘機」と称されたF-104が導入されるまでの主力戦闘機でした。また、アクロバットチーム「ブルーインパルス」の初代機としても採用されており、1964年の東京オリンピックでは、開会式で大空に五輪を描いています。
クルマの「ハチロク」は、トヨタ自動車のホットモデル「カローラレビン」「スプリンタートレノ」のうち、1983年に発売された4代目のこと。型式番号が「AE86」であることから、クルマ愛好家からは「ハチロク」と呼ばれています。FR(フロントエンジン・リアドライブ)車のために「安くてドリフトがしやすいクルマ」という扱いで、次代からはFF(前輪駆動)に変わったことから、人気が上昇しました。また、マンガ「頭文字D」では、主人公が乗るクルマとして登場。これが大ヒットした結果、クルマ自体もカルト的な人気が生まれました。
そのAE86のスピリットを受け継いで、2012年にトヨタが発売したのが、ずばり「86」。スポーツカーとなったほか、エンジンは富士重工業(現:SUBARU)製の水平対向エンジンで、AE86とは若干立ち位置が異なるのですが、「FRで(比較的)低価格」という点はAE86と同じでした。86はSUBARUとの共同開発車で、SUBARU側では「BRZ」として発売。2021年には2代目にフルモデルチェンジし、86は「GR86」と名前が変わっています。
蒸気機関車と、戦闘機、そしてクルマ。全く異なる役目の乗り物ですが、いずれも大ヒットし、ファンから愛されたという点は変わりません。「ハチロク」という愛称は、異なる乗り物どうしでも、愛される記号として受け継がれていくのかもしれません。