公園などで、保存されている鉄道車両を見られることは、とくに珍しくありません。その保存形式は、「静態保存」という、線路上を動かすことを前提としないものがほとんど。公園には保存車両を走らせるほどの線路を敷くスペースがないことも多いので、車両を動かせる状態で保存する「動態保存」でないことは当たり前ではあるのですが。
しかし、東京都大田区は入新井西公園。ここにはC57形蒸気機関車の66号機が保存されています。公園はJR東海道本線、京浜東北線の線路沿いにあり、車内からその姿を見ることもできます。そんなC57形66号機、静態保存されている蒸気機関車のなかでも、ちょっと異色な存在です。
なにが「異色」なのか。それは、「車輪だけは動かせる状態にある」こと。
機関車の車輪と線路の接点をよく見ると、コロのようなものが設置されていることがわかります。これを回すことで、機関車の車輪を動かすことができるのです。機関車そのものは動かないので、保存形式は「静態保存」ですが、車輪を動かすことはできる。あえて名づければ、「足だけ動態保存」といったところでしょうか。
機関車の近くには「時刻表」があり、毎日12時と15時に「発車」することが書かれています。車輪が動き出すと、「ボォー!」と汽笛が3回轟きます。「時刻表」の下には、「早く回転させると、部品の摩耗による故障が起こっても、今後は修理が困難になると、『国鉄から』注意を受けた。少しでも永く保存(運転)するため、ゆっくり回転させている」との注意書きが。全速力でこそないものの、1日2回「走る」その姿からは、この機関車がまだ生きていることを感じさせられます。そして、国鉄時代から「足だけ動態保存」が続いていることは、特筆すべきことでしょう。
この公園に保存されている機関車・C57形66号機は、第二次大戦の直前、1938年に産声を上げました。最初は関西地区に配置されましたが、1944年に門司機関区に転属して以降は九州地区を走ります。1973年に廃車となり、翌1974年、同機は入新井西公園に運ばれました。この地で余生を過ごして、今年でちょうど50周年を迎えます。
C57形66号機は展示時間中、1日2回の「走っている」時間を除き、運転席が解放されています。保存状態は良好で、ハンドル類を手に機関士(機関車の運転士)気分を味わうこともできます。運転席に座り、横を走る東海道線や京浜東北線の電車を見ると、鉄道の技術の進化を感じられることでしょう。
入新井西公園の最寄り駅は京浜東北線の大森駅で、同駅から徒歩5分ほど。少し距離はありますが、京急線の大森海岸駅からもアクセス可能です。