「特急」といえば、JRでは最上位の種別です。在来線特急はもちろんですが、新幹線も、各駅停車タイプの「こだま」などでも乗車には特急料金が必要なことからわかる通り、全て特急列車となっています。私鉄では、会社によっては特急以上の種別が存在しますが、それでも上位種別という立ち位置に変わりはありません。
ところで、特急という名前は、実は略称です。たまに「『特に急がない』の略」と揶揄される列車もありますが、正しくは「特別急行」。今はJRの定期列車は消滅した急行より上の、特別な急行という意味です。
特別急行が誕生したのは、1912年のこと。新橋~下関間で上下1往復が設定され、新橋~大阪間を12時間、新橋~下関間を25時間で結びました。この列車は、全車両が1等車または2等車、つまり現代のグリーン車やそれ以上の格式を備えており、まさに特別な急行でした。今でこそ、お金さえ払えば誰でもグリーン車やグランクラスに乗れますが、「平民」「華族」という階級があった当時、等級の上下は現代とは感覚が大きく異なったよう。すなわち、特別急行自体も一般人には雲の上の存在だったと言えます。
その後、日本初の特別急行には「富士」という名前が付けられ、列車愛称という概念が登場。以降、時代が下ると、戦前の超特急「燕」や戦後のビジネス特急「こだま」が生まれ、1970年代には高頻度運転、パターンダイヤ設定、自由席連結という「L特急」が誕生します。特急列車の大衆化が進み、一方で急行列車は減少すると、いつしか「特別な」という意味合いも、感覚的には薄れていきました。
特急という略称が定着した後も、JR東日本の一部駅やJR北海道の札幌駅などでは、自動放送で特別急行というフレーズが使われていました。しかし、JR東日本ではこのタイプの自動放送は更新で順次変更。札幌駅でも、3月16日のダイヤ改正を前に、「特別急行〇〇」から「特急〇〇」という放送に更新されてしまいました。SNSでは「旅情が感じられたのに」などと、残念がる声が見られます。