阪神電気鉄道の阪神なんば線。大阪難波~西九条間が開業し、阪神と近鉄の相互直通運転が始まってから、3月20日で15周年を迎えました。
その阪神と近鉄の直通運転は、少し特殊です。他では一般的な車両規格の統一が、両社では実施されなかったのです。
鉄道車両には、車体の幅や長さ、ドアの数などの規格が存在します。ある会社内のみで車両を走らせる場合は、同社線の実状のみを考えれば問題ありません。しかし、他社に直通する車両の場合は、車体寸法が異なると、カーブを曲がれない、ホームで車体を擦ってしまう、といった問題が発生するおそれがあります。そのため、JR各社やその直通私鉄各社、あるいは京成と京急、名古屋市営地下鉄鶴舞線・上飯田線と名鉄、大阪メトロ堺筋線と阪急京都線のように、直通する事業者・路線間では、少なくとも直通車両においては、統一した規格を採用することが普通です。
しかし、阪神と近鉄の場合は、車体の長さやドア数といった仕様を統一せず、直通運転を開始。阪神は18メートル級3ドア車、近鉄は20メートル級4ドア車での直通という形が、現在もそのまま引き継がれています。
阪神の場合は、近鉄との直通運転を開始するはるか前から、山陽電気鉄道との直通運転を実施しています。山陽電気鉄道の車両は阪神車に近い規格。仮に阪神が車両規格を全面的に改めるとなった場合には、山陽電気鉄道にまで影響することが考えられます。一方の近鉄は、阪神なんば線との直通運転以外にも、東は名古屋まで路線網を広げており、全車両の規格を変更することは現実的ではないのです。
加えて、両社とも、直通運転に使用するのは直通「専用」車両ではありません。阪神車は大阪梅田駅方面や山陽姫路駅方面、近鉄車は京都駅方面など、直通運転に関わらない区間への運用にも投入しています。名古屋市営地下鉄に直通する名鉄100系・200系・300系では、他の名鉄車と異なる車両寸法を採用し、(ほぼ)直通運転専用車としていますが、阪神・近鉄ではその手段を採れない運用を組んでいます。
ただし、車両の寸法などは異なりますが、電化方式やレール幅といった基礎的な要素は、当たり前ですが同じです。もちろん、保安装置などの装備も、直通車両は両社に対応するものが設置されています。
車両の運用面では柔軟性がある「仕様バラバラ」の直通運転ですが、利用者にとっては、次に来る列車が阪神車か近鉄車かによって、ホームで待つ位置が異なるという不便さがあります。加えて、近年設置が進む可動式ホーム柵(ホームドア、ロープ柵など)は、ドア位置が統一されていた方が、設置は簡単になります。特に近鉄では、阪神との直通関連車以外にも、ドア位置が異なる特急車が存在します。阪神なんば線開業時にホームドア導入が想定されていたかは不明ですが、今になってじわじわと影響が出つつあるのかもしれません。