日本の鉄道事業者には、JRを含む民間の鉄道会社のほか、〇〇市営地下鉄、あるいは〇〇市電を運営する、公営事業者も存在します。
この公営事業者を見てみると、都営地下鉄などを運営する東京都交通局を除けば、札幌市、函館市、仙台市、名古屋市、京都市、神戸市、福岡市、熊本市、鹿児島市と、いずれも市レベルの自治体です。東京都も、特別区が設置されているために都が事業を担っているようで、実際、1943年の東京都発足までは、東京市が路面電車やバスの事業を担っていました。
では、東京都交通局以外の道府県レベルによる「県営鉄道」はなかったのかというと、歴史上は複数の路線が存在しました。一般旅客が乗れる列車を運行していたのは、千葉県営鉄道、富山県営鉄道、宮崎県営鉄道、沖縄県営鉄道の4つです。
富山、宮崎、沖縄の各県営鉄道は、いずれも戦前~戦時中に存在しました。富山県営鉄道は現在の富山地方鉄道上滝線や立山線の一部、宮崎県営鉄道は現在の日南線の一部として、ともに残存しています。沖縄県営鉄道は、1945年の沖縄戦に巻き込まれ、そのまま消滅されてしまいました。
千葉県営鉄道は、その他とは少し事情が異なります。実際に運行していた路線は、他の県営鉄道と同じく、戦前に存在した歴史上のもの。現在の久留里線や、東武野田線(アーバンパークライン)の一部、成田鉄道多古線・八街線(現在は廃止)などが、戦前は千葉県営鉄道の路線となっていました。
千葉県が特徴的なのは、戦後にも県営鉄道を敷設する計画があったということ。現在は北総鉄道の路線が通る千葉ニュータウンエリアを通る予定だった「北千葉線」です。本八幡駅と千葉ニュータウン方面を結び、都営新宿線とも直通する構想だったこの路線ですが、計画遅延や県政の変化などの事情で、最終的に建設は断念されてしまいました。
このほか、旅客が乗車できなかった県営鉄道として、埼玉県営鉄道が存在しました。こちらは砂利採取のために敷設された専用鉄道で、他の県営鉄道とは少し性格が異なる路線でした。
ちなみに2025年現在、青森県、福島県、和歌山県の3県は、鉄道事業者としてカウントされています。これは、各県営の鉄道があるわけではなく、各県が設備などを保有する「第三種鉄道事業者」に数えられるため。青森県は青い森鉄道線、福島県は只見線の一部、和歌山県は南海和歌山港線の一部の設備を保有しています。青森県と福島県は、青い森鉄道と只見線の営業費用負担のために、このような形態を採用。和歌山県は、和歌山港線の一部区間を「臨港鉄道」として整備した経緯で、現在のような形となっています。いずれも、実際の運行業務は鉄道事業者に任されているため、都営地下鉄などと異なり、県の職員が列車を運転しているわけではありません。