東京には、東京メトロと東京都交通局が運行する、13の地下鉄路線があります。有楽町線と副都心線、南北線と三田線のペアを除く大部分の路線は、他の地下鉄路線と線路が直接繋がっておらず、それぞれが独立して運行されている……ように見えます。しかし、一部の路線の間では、それぞれを繋ぐ「秘密のトンネル」が設けられています。
この秘密のトンネルは、一つの車両基地を複数の路線の車両が使えるように設けられました。車両基地には、車両の留置機能、車両の検査機能という、大きく2つの役割があります。後者の車両検査のうち、特に大規模なものを実施するためには、大がかりな施設が必要です。しかし、たとえば東京メトロの場合、9路線すべてで個々に大規模な施設を建設すると、それ相応のコストが掛かってしまいます。そこで、一つの車両基地を複数の路線の車両が使うことを目的に、別の路線へ乗り入れられるよう、このトンネルが設けられているのです。
東京メトロの秘密のトンネルは、千代田線霞ケ関~有楽町線桜田門間、有楽町線飯田橋~南北線市ケ谷間に設けられています。これにより、南北線や有楽町線の車両が千代田線北綾瀬駅付近の綾瀬車両基地に入場することができます。また、独立した長いトンネルではありませんが、赤坂見附駅付近には、銀座線の車両が丸ノ内線の車両基地へ入場するための連絡線が設けられています。都営地下鉄では、歴史的経緯から4路線中3路線に大規模な車両基地が設けられていますが、大江戸線の車両は浅草線の馬込車両基地へ入場するため、大江戸線汐留駅付近と浅草線新橋~大門間を結ぶ秘密のトンネルがあります。
また、このようなトンネルは、東京だけのものではありません。大阪メトロでは、御堂筋線、中央線、四つ橋線、谷町線、千日前線の車両の大規模検査を、四つ橋線沿線の緑木車両工場が担当。そのため、各線を繋ぐ連絡線が、大阪の地下に設けられています。今里筋線の車両も、大規模検査は長堀鶴見緑地線の車両基地を使用するため、両線の車両基地を繋ぐトンネルがあります。加えて、札幌市営地下鉄では東西線と東豊線、名古屋市営地下鉄では鶴舞線と桜通線に、秘密のトンネルが設けられています。
こうしたトンネルは、基本的には回送列車が使用するもので、営業列車が走ることはあまりありません。しかし、過去にさかのぼると、東京メトロ千代田線と有楽町線を結ぶトンネルでは、臨時ロマンスカー「ベイリゾート」(本厚木~千代田線~有楽町線~新木場間)が運転されていたことがありました。また、イベント列車で乗る機会もゼロではなく、直近でも、大阪メトロ中央線を引退した20系のラストラン列車が、森ノ宮~中央線~四つ橋線~緑木検車場間で運転されています。