利用者が少ないローカル線は、国鉄時代から存廃についての議論があります。特に少子高齢化時代に突入し、コロナ禍も経た現代では、さらに議論の対象となる路線が増える傾向にあります。
路線の廃線は、基本的には不可逆的なものです。中には、廃線となった路線の一部施設を活用した観光施設が生まれることもありますが、一度廃止となった路線でふたたび旅客列車が走る例は、ほぼありません。その数少ない例外が、JR西日本が運行する可部線の可部~あき亀山間です。
広島市内の横川駅を起点とする可部線は、2003年までは横川~可部間が電化区間、可部~三段峡間が非電化区間でした。電化区間では広島駅方面との直通列車も多く走り、全線が市街地であることから利用者も多かった一方、非電化区間は山あいを走る路線で、国鉄時代から赤字路線の一つに数えられていました。可部線の非電化区間は、国鉄分割民営化前の全国的な路線整理こそ乗り越えたものの、2003年に廃止されてしまいました。
可部駅の一つ隣の河戸駅周辺では、可部~河戸間の電化推進運動が、非電化区間廃止前から住民主体で進められていました。市街地である河戸駅まで電化区間となり、広島方面まで乗り換えなしで行けるようになれば、同駅周辺の利便性が向上するためです。河戸駅を含む区間は、先述したように2003年に廃止されてしまいますが、この運動は「電化延伸」に名を変えて継続されました。これが実った結果、国や自治体の整備負担により、可部線廃止区間の一部が電化路線として復活することに。2017年3月4日、可部~あき亀山間の開業に至りました。
「復活区間」において、電化運動の対象となっていた河戸駅は再開業することはなく、約300メートル離れた位置に新駅のあき亀山駅が設置されました。また、延伸区間の途中には、河戸帆待川駅という新駅も設置されています。なお、かつての非電化区間には、現在の終点と同じ読みの安芸亀山駅がありましたが、こちらは新駅のあき亀山駅とは約3.4キロ離れた場所にあった、全くの別物です。
なお、JR線が廃止した路線がふたたびJR線として復活したのは可部線が唯一ですが、別の鉄道会社によって(事実上)復活した例は、江若鉄道線→湖西線、土佐電気鉄道安芸線→土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線など、少なからず見受けられます。ただし、江若鉄道線などは線路用地を全て転用したわけではないので、一部区間を完全復活させた可部線とは、事情が少し異なります。