日本の鉄道車両は、進行方向に向かって左側に運転席が設置されているものが多くなっています。同じ左側通行の乗り物でも、クルマでは向かって右側の配置、つまり「右ハンドル」が基本です。なぜ鉄道では「左ハンドル」に相当する位置にあるのでしょうか。
その理由は……と断定的にご紹介できればいいのですが、実際には「これ」と説明できる確かなものはないよう。諸説ある、という状況です。
よく言われるのは、左側通行の鉄道では、線路の左側に信号を建てているから。特に蒸気機関車の時代には、運転席からの前方視界は、巨大なボイラーにさえぎられてしまいます。左側に信号を建てるのであれば、右側からではボイラーが邪魔なため、左側を運転席にした、という説です。
もう一つは、左側通行では進行方向左側にホームが来ることが多いからというもの。現在のように電気的な保安装置によって列車の衝突を防ぐ仕組みが構築される前、単線区間では正面衝突を避けるため、1つの区間(閉塞)には物理的な証明(「タブレット」や「票券」)を持った列車しか入れないという仕組みが使われていました。タブレットなどを受け渡しするには、左側通行ではホーム側に運転席があった方が便利です。特に、国が建設した主要幹線や地方ローカル線では、駅のホームは進行方向左側にある「相対式」が多くなっていました。そのため、運転席も左側の配置になった、という説です。
鉄道車両の運転席は左側配置が主流となっている日本ですが、必ずしも左側に置かれるというわけではありません。たとえば路面電車の場合は、運転席は左右どちらも見やすい中央配置が主流です。また、都営地下鉄大江戸線などの比較的新しい地下鉄や、モノレール、新交通システムでは、右側配置とすることが多くなっています。これらの路線では、駅の建設コスト削減のため、上下線で1つのホームを共用する「島式」としています。この場合はほとんどの駅で進行方向右側にホームが来るため、確認のしやすさなどを理由に、運転席は右側配置となっています。
面白いところでは、関東鉄道の竜ヶ崎線の車両は、竜ヶ崎駅方面が右側、佐貫駅方面が左側という、前後非対称の配置となっています。全長4.5キロのミニ路線である竜ヶ崎線では、3つある全ての駅のホームが同じ側に設置されています。竜ヶ崎駅行き基準では右側にしかホームがないので、ホーム確認のしやすさのため、このように珍しい運転席配置が採用されました。