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非常用装備を「常用」!? 箱根登山線にあった「クセモノ駅」

2025年1月2日(木) 鉄道コムスタッフ 井上拓己

一部区間に80パーミルという急な坂があることで知られる、小田急箱根の箱根登山線。急な坂、急なカーブ、小さな車体など、随所に独特な仕様が見られる登山線ですが、少し前までは、駅にもなかなかのクセモノが存在していました。

そんなクセモノ駅が、風祭駅。登山線が小田原への延伸開業を果たした1935年に開業した駅です。この駅は2024年現在、20メートル級の4両編成に対応した相対式ホームが設置されていますが、かつては、上下線の線路の間に島式ホームを置く形態でした。風祭駅が「クセモノ」だったのは、この島式ホーム時代。なにが「クセモノ」だったのか、2つの点から見ていきます。

かつては登山線の駅でトップクラスに「クセモノ」だった風祭駅
かつては登山線の駅でトップクラスに「クセモノ」だった風祭駅

1点目は、ホームの長さ。登山線の車両は14メートル級。同駅の開業時、ホームの長さは登山線車両2両分ほどの長さしかなかったのです。最初はそれでよかったのですが、1950年、小田原駅で接続する小田急線の車両が登山線に乗り入れるようになり、問題が発生しました。

小田急の車両は、1両の車体長、編成両数ともに登山線車両より長く、風祭駅のホームが短すぎたのです。本来は上下線の間隔を拡げ、ホーム延長のスペースを確保したかったのでしょうが、風祭駅は線路の両側ギリギリまで建物が迫っており、こうした手法はとれませんでした。

車両の長さに対してホームが短い場合、多くの鉄道会社では、ホームにかからない車両の扉を締め切る「ドアカット」機能を導入しています。しかし、風祭駅では、そのような扱いはしませんでした。

ホームが短く、ドアカットを実施している例(東急大井町線九品仏駅)。奥の1両だけ、扉が閉まったままです
ホームが短く、ドアカットを実施している例(東急大井町線九品仏駅)。奥の1両だけ、扉が閉まったままです

そこで、2つめの「クセモノ」ポイント、客扱いの方法です。同駅では非常用のドアコックを使い、一部の車両の扉を手動で開閉していました。ドアコックは、緊急時に扉を開け、乗客が避難できるように設置されています。それを駅での客扱いに使うのは、珍しいことでした。1993年、登山線の車両が3両編成で走るようになり、風祭駅のホームも延長。しかし、小田急の長い編成を収容できるほどの長さにはならず、ドアコック扱いはその後も続きました。

同駅の転機は2008年。同年のダイヤ改正で、小田原~箱根湯本間の各駅停車は小田急車両の4両編成に統一されることになりました。これを前に、風祭駅は線路とホームの切替工事を実施。島式ホームを廃止し、上下線の間隔を詰め、その両側に4両編成分の相対式ホームを設置しました。ダイヤ改正を機に、風祭駅はドアコックによる扉の開閉を廃止。クセの強い客扱いは、これをもって見られなくなりました。

2008年に相対式になった風祭駅ホーム(2023年撮影)。これが完成して、同駅の「クセが強い」客扱いは終わりました
2008年に相対式になった風祭駅ホーム(2023年撮影)。これが完成して、同駅の「クセが強い」客扱いは終わりました

余談ですが、島式ホーム時代の風祭駅は、駅舎(改札)が踏切に面していました。そのため、踏切の遮断機を駅舎の前にも設置して安全を確保するという、これまたクセの強い構造になっていました。

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