現在は別々に運転されている東海道新幹線と東北・上越新幹線ですが、かつては直通運転を実施する計画がありました。
東京駅の東海道新幹線ホームは、14番線から19番線までの3面6線で構成されています。このうち、JR東日本の新幹線ホームに隣接している14・15番線ホームは、16~19番線ホームと異なり、北側がカーブを描く構造となっています。これは、もともと14・15番線ホームは東北・上越新幹線用として建設されたため。さらにこのホームは、東海道新幹線と東北・上越新幹線の直通運転も考慮して建設されていました。仮に東海道新幹線と東北・上越新幹線の直通運転が実現していた場合、東海道新幹線ホームは16~19番線、東北・上越新幹線ホームは12~15番線(12・13番線は現在の22・23番線)という内訳で、12~16番線は東海道・東北・上越新幹線の直通用とする予定だったようです。
実は、東海道新幹線と東北・上越新幹線は、そのままレールをつなげるだけでは直通運転はできません。その理由の一つは、走行用に使用している電気の周波数が異なるため。歴史的な経緯から、日本国内の商用電源周波数は、東日本は50ヘルツ、西日本は60ヘルツとなっています。東海道新幹線は60ヘルツ、東北・上越新幹線は50ヘルツを採用しているため、車両側で両周波数に対応させる必要があります。
国鉄時代に両新幹線の直通運転を検討していた際は、王子駅付近に「き電区分所」を設け、ここで50ヘルツと60ヘルツの電気を切り替える計画でした。田端の車両基地(現在の東京新幹線車両センター)までは60ヘルツ区間のため、東海道新幹線の車両はこの車両基地に入線可能。逆に、東北・上越新幹線の車両はすべて50・60ヘルツ両対応なので、品川・大井の車両基地(現在の大井車両基地)まで入線可能です。新幹線が東京駅に到着した後、東海道新幹線の車両は北側の車庫で、東北・上越新幹線の車両は南側の車庫で、それぞれ折り返し整備をすることで、東京駅でのホーム占有時間削減につなげる狙いがあったといいます。また、車両基地までの短距離回送だけではなく、当初は仙台・高崎~静岡・名古屋間などでの直通運転実施も検討していたと、日本経済新聞が1983年に報じています。
しかし、国鉄は両周波数に対応した試作車こそ開発できたものの、実用化は断念。1982年刊行の専門誌「電気鉄道」では、国鉄電気局計画課の担当者が、「直通に伴う問題点が、当初考えられていたものより大きいことがわかったため、定常的には直通運転を行わない方向となった」とも記していました。加えて、東北・上越新幹線の東京駅乗り入れは、大宮駅以南の用地買収難航などの影響で、1991年までずれ込みました。この時点で東海道新幹線は東北・上越新幹線と直通できるほどダイヤに余裕がなく、JR東海はJR東日本からの直通運転実現要望を拒否。結局、新幹線の南北直通は実現せず、現在に至っています。
なお、複数の周波数に対応した新幹線の営業用車両自体は、JR東日本がE2系、E7系として開発に成功。周波数が複数回入れ替わる北陸新幹線の走行に対応しています。保安装置や無線といった別の装置の対応こそ必要ですが、電気まわりの車両技術的には、JR東海とJR東日本の新幹線の直通運転は可能となっています。