新幹線車両は、初代の0系から最新型のE8系まで、先頭部はみな流線形です。特に、N700SやE5系などの近年の車両は、長く複雑な先頭形状をしたものが多くなっています。
先頭部が流線形となっているのは、一つは空気抵抗に打ち勝つため。初代の0系でも時速210キロ、現在日本最速のE5系・E6系では時速320キロもの高速で走るため、通勤電車のような箱型の車体では、車両が受ける空気抵抗も非常に大きくなります。高速走行時でも空気の流れをなめらかにし、余分な抵抗を生まないようにするため、このような流線形が採用されています。
そしてもう一つ重要なのが、圧縮波を低減するためです。新幹線が高速でトンネルに突入すると、トンネル内部の空気が圧縮され、反対側の出口に向かって音速で伝搬する波が発生。これが出口に至ると、「ドン」という音とともに圧力波が発生します。これはトンネル微気圧波といい、「トンネルドン」という別名もつけられています。
トンネル微気圧波は、ただ騒音を発生させるだけでなく、周囲の家屋に影響を与えることもあるため、さまざまな対策が試行されてきました。その対策の一つが、近年の新幹線車両でよく見られる、長く複雑な先頭形状なのです。単純な流線形ではなく、先頭形状を工夫することで、トンネル微気圧波の低減が図られています。
ちなみに、日本の新幹線と同じように高速運転を実施している、フランスの「TGV」やドイツの「ICE」、イタリアの「フレッチャロッサ」などでは、先頭形状は日本の新幹線よりも短く、単純な形をしています。ヨーロッパの高速鉄道では、日本の新幹線と比べると、トンネル断面が大きい、騒音規制が緩い、などの理由から、日本ほどトンネル微気圧波が問題とならないよう。地上側の設備でトンネル微気圧波の低減を図ってはいるのですが、日本ほど高度な対策を講じる必要はないようです。
最近の新幹線車両でも、北陸・上越新幹線を走るE7系・W7系は、東北新幹線のE5系よりも単純な先頭形状となっています。E7系・W7系の最高時速は275キロのため、最高時速320キロで走るE5系ほど、トンネル微気圧波対策は必要とされていないためです。
一方、最高時速360キロでの営業運転実現を目指して開発された試験車両「ALFA-X」では、E5系以上に大胆な先頭形状を採用しています。ALFA-Xはあくまで試験車両のため、将来登場する営業用車両がどのような形となるかは不明ですが、仮にE5系以上のスピードアップが実現するのであれば、今よりも複雑な先頭形状の車両が登場することになりそうです。