大都市を長年走った鉄道車両が地方の私鉄に譲渡されることは、珍しくありません。たとえば、元:東急電鉄の車両を譲り受けている弘南鉄道、福島交通など、元:西武鉄道の車両を導入している伊豆箱根鉄道や近江鉄道などがそれです。なかには、譲渡先での運用を終えたのち、さらに別の鉄道会社へ譲渡するという事例もあります。
こうした車両譲渡における大切な点に、「対象車両の状態」「譲渡にかかわる事業者の路線条件」などが挙げられます。対象車両の状態が悪ければ、大がかりな改修工事が必要です。また、譲渡前の路線と譲渡後の路線で線路の幅が異なれば、台車を別途調達しなければいけません。費用面を考えると、こうした大改造はなるべく避けたいところでしょうが、なかには、集電方式の変更という大改造を施してまで中古車を導入した事例もあります。
そんな「大改造譲渡車両」の一例が、1990年代後半に高松琴平電気鉄道(ことでん)が導入した、600形、700形、800形。これらは、もともと名古屋市営地下鉄の東山線、名城線、名港線を走っていた車両です。これらの路線は、第三軌条による集電方式を採用していますが、ことでんのそれは一般的な架空電車線方式。そのため、譲渡にあたり、車両にはパンタグラフを搭載。さらに、もともと中間車だった車両は先頭車化しました。その大改造ぶりはまさに「驚異的ビフォーアフター」といえるでしょう。
ことでんが名古屋市営地下鉄の車両を導入した背景にあるのは、同社の路線設備の事情です。急カーブや古い橋りょうがある当時の長尾線と志度線は、走れる車両の長さや重さに制限がありました。しかし、両線を走れるミニサイズの車両は、他社では淘汰がほぼ終わっており、導入できる車両の候補はかなり限られていました。そこで注目されたのが、車体長15メートルの名古屋市営地下鉄の車両だったのです。現在、長尾線は設備改良の結果、18メートルの車両が走れるようになりましたが、志度線は現在も元:名古屋市営地下鉄の車両だけで運用されています。
また、熊本電気鉄道では、新たな譲渡車として、元:東京メトロ01系(銀座線の車両)が2015年にデビューしました。こちらも譲渡にあたり、パンタグラフの搭載や、台車の交換といった大改造を実施。それでも、完全な新造車両を導入するより、中古車導入の方が費用は安いのだとか。
「大改造!驚異的ビフォーアフター」により、地下鉄車両を地上に引っ張り出したことでんと熊本電気鉄道。しかし、これらと同じミニサイズの地下鉄車両は、しばらく中古車市場に放出されることはなさそうです。ことでんを走る元:名古屋市営地下鉄の車両は、いよいよ車齢50年の大台に。将来、車両の置き換え時期がきたとき、その代替をどうするのか、気になるところです。