西武鉄道の山口線は、多摩湖線と接続する多摩湖駅と、埼玉西武ライオンズ本拠地の「ベルーナドーム」最寄り駅である西武球場前駅を結ぶ路線。「レオライナー」の愛称もつけられています。今は「ゆりかもめ」や「ニューシャトル」などでも見られる「新交通システム」(ただし仕組みは別物)が使われている山口線ですが、かつてはレールの上を走る鉄道車両が運転されていました。
レールの上を走るといっても、かつての山口線は、他の西武線(レール幅1067ミリ)よりも小ぶりな規格の、レール幅762ミリの「軽便鉄道」路線でした。もともとは、西武遊園地とユネスコ村を結ぶ、1950年に開業した「遊具」扱いの路線だったのですが、1952年には正式な鉄道の仲間入りを果たし、この際に山口線という路線名がつけられています。
軽便鉄道時代の山口線には、「おとぎ電車」あるいは「おとぎ列車」という愛称がつけられていました。当時の車両は、蓄電池式の機関車が客車をけん引するという、遊園地の乗り物が外に飛び出たようなものでした。加えて、1972年には小型の蒸気機関車が導入され、軽便鉄道の廃止まで活躍しました。
ユニークな路線だった山口線ですが、現在の新交通システムへの転換が決まり、「おとぎ電車」は1984年に廃止。蓄電池機関車や蒸気機関車は、その役目を終えました。新交通システムの山口線は、翌1985年に開業。それまでの遊園地来場客輸送だけでなく、球場輸送でも活躍するようになりました。
そんな「おとぎ電車」で活躍していた蓄電池機関車ですが、西武鉄道などは9月2日、所沢駅付近の商業施設「エミテラス所沢」(9月24日グランドオープン)に、この車両を設置すると発表しました。
エミテラス所沢は、もとは西武鉄道の車両工場があった場所に建てられた施設です。西武鉄道などはこの歴史を受け継ぎ、館内に「レガシー」を展示することを発表。これまでに、所沢駅と車両工場を結んでいた引き込み線、そして乗務員教育で使われてきた2000系のシミュレーターの設置が発表されていました。そして今回、3つ目のレガシーとして、「おとぎ電車」の設置も発表。西武鉄道などは、これらを「エミテラス所沢」の新しいシンボルとして、事績を伝えていくとしています。
ちなみに、今回エミテラス所沢に設置される「おとぎ電車」の機関車は、鉄道模型「KATO」で知られる関水金属から譲渡されたもの。関水金属では、「おとぎ電車」の機関車2両や客車などを、それまでの所有者から引き取り、うち数両の動態復元作業を進めてきました。今回西武に譲渡されなかった機関車などは、鶴ヶ島市に建設された関水金属の新工場にある保存鉄道「KATO Railway Park・関水本線」で、保存車両として走る予定です。