JRの特急(新幹線含む)は、「のぞみ」「サンダーバード」など、列車愛称がついているのが基本です。しかし、中には列車愛称がない、「名無しのJR特急」も存在しています。
そんな特急が走っているのは、JR西日本の博多南線。在来線ながら、山陽新幹線の車両を使用しているという、ユニークな路線です。
博多南線の終点である博多南駅は、山陽新幹線の車両基地に隣接する駅。このエリアでは、近くに他の鉄道路線がなく、鉄道駅まではバスやクルマで移動する必要があることから、かつては「陸の孤島」と称されていました。その状況を改善すべく、周辺住民らが国鉄→JRに「回送列車に乗せてくれ」と陳情したのが博多南線の始まり。「こだま」の回送列車を営業列車として走らせる形で、1990年に開業しました。
その博多南線は、列車はすべて在来線特急列車という扱いで、乗車には運賃のほかに特急券が必要です。そして、博多駅の発車標には「731号」などと列車固有の号数も表示されています。しかし、山陽・九州新幹線の列車の表示では「のぞみ」「こだま」などと列車名が書かれている一方、博多南線の列車では列車名の部分は空欄。それどころか、博多南線の列車内や、終点の博多南駅では、その号数すら案内されていないようです。
なぜ博多南線では列車名を使用していないのか、鉄道コムではJR西日本の広報担当部署に質問しましたが、その経緯は不明とのことでした。ここから先はあくまで筆者の想像ですが、「こだま」の回送列車を営業化する形で開業した博多南線では、短距離かつ山陽新幹線と一体化した路線のため、あえて独自の名称をつけることは考えにくかったと思われます。一方で、この路線は新幹線ではないため、新幹線の愛称である「こだま」を使用することもはばかられます。その結果が、JR唯一の「名無しの特急」が生まれた理由なのではないでしょうか。
ちなみに、博多南線の列車が特急扱いとなった理由については、「新幹線の車両・施設を利用していること」「運転速度が時速120キロと高速であること」から、他線区の在来線・新幹線との整合性を考慮し、大人100円(当時)の特急料金を必要とする形にしたのだといいます。
そんな「名無しの特急」が走る博多南線ですが、上り列車で、かつ博多駅からは「こだま」となる列車は、博多南駅の時点で車両の行先・列車名の表示は「こだま」のものとなっているよう。実際のところはともかく、乗る側としては、列車名があってもなくても、あるいは(直通先の列車名である)「こだま」と認識していても、そこまで大きな違いはないのかもしれません。