「鉄道」という存在は、鉄道ファンだけでなく、旅や情景といった要素が、多くの人々の興味を引いてきました。それは音楽家たちも例外ではなく、「鉄道唱歌」のように鉄道そのものを題材とした曲はもちろんのこと、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界から」のように、モチーフとして鉄道を取り上げた楽曲も、数多く存在します。
そんな音楽家たちが残した、鉄道に関連する楽曲ばかりを取り上げた公演「鉄路は続くよ、どこまでも 続・オーケストラで出発進行!」が、2024年9月、札幌で開催されました。
この公演は、北海道唯一のプロオーケストラである札幌交響楽団(札響)が実施している、テーマに沿った楽曲を演奏する「名曲コンサート」の一環として開催されたもの。今回は題名の通り、鉄道にちなんだ楽曲が、メジャーなものからマイナーなものまで、数多く演奏されました。
プログラムに組まれた楽曲は、ヨハン・シュトラウス2世の「ポルカ『特急』」や、ドヴォルザークの弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」第4楽章、ブリテンの「夜行郵便列車」などです。特に夜行郵便列車は、ドキュメンタリー映画の音楽として作曲されたもので、英語の詩もつけられているのですが、今回の公演では、この詩を市川沙耶さんが朗読。この映画を筆者は見たことが無いのですが、まるでその情景が浮かび上がるような雰囲気での演奏となっていました。
また、途中ではコーラスグループのベイビーブーが出演するコーナーも。「鉄道唱歌」の北海道編や、世界初のCM曲として知られる「フニクリ・フニクラ」など5曲を、オーケストラの伴奏つき、あるいはアカペラで歌い上げました。
そして、プログラムの最後に組まれていたのが、リヒャルト・シュトラウスの交響的幻想曲「イタリアから」第4楽章「ナポリ人の生活」。先のフニクリ・フニクラを、シュトラウスが誤って「昔からの民謡だ」と勘違いして、メロディーに取り入れてしまい、トラブルになったと言われている曲です。この曲は、指揮者の秋山和慶さんが得意とするものの一つだということ。プログラムの締めを飾る曲として、秋山さんや札響のメンバーによる熱演が繰り広げられました。
ちなみに、今回指揮棒を振った秋山さんは、小澤征爾さんとともに「サイトウ・キネン・オーケストラ」を創設した、日本を代表するマエストロの一人。その一方で、大の鉄道好きとしても知られています。また、今回の公演で演奏した楽曲の選定に携わった、音楽ジャーナリストの岩野裕一さんも、同じく鉄道ファン。ホワイエには、秋山さんが持参したC57形の鉄道模型や、岩野さんのコレクションである急行「大雪」のサボが置かれているという、オーケストラの公演ではなかなか見られない展示もありました。
鉄道は、これまでに音楽や絵画など、さまざまな芸術の題材とされてきました。もちろん、中には「たまたまテーマにしただけ」という作品もあるかもしれません。しかし、秋山さんや岩野さんのような鉄道好きの人たちが、鉄道とさまざまなジャンルを結びつけ、鉄道好き以外にも知られるような作品、そして文化を作り上げていったのではないでしょうか。今回のコンサートは、筆者にそんなことも思わせてくれました。