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バスなのに「鉄道」 引退迫る関電トロリーバスに迫る

2018年7月11日(水) 鉄道コムスタッフ

工場や運行業務は? トロバスのウラ側へ

車両だけでは運行できないのは、どの運輸業でも同じです。ここからは、トロリーバスの運行を支えるウラ側をご紹介しましょう。

まずやってきたのは、トロリーバスの整備工場。扇沢駅構内にあり、駅の到着ホームから遠目に窺うこともできます。

トロリーバスの整備工場。この日は、レトリバーの点検などの軽作業が中心でした
トロリーバスの整備工場。この日は、レトリバーの点検などの軽作業が中心でした

通常の鉄道車両と同様、トロリーバスでも検査周期が法律により定められています。関電トンネルトロリーバスでは、3~4日ごとの「要部検査」、1か月ごとの「1か月検査」、1年ごとの「重要部検査」、そして3年ごとの「全般検査」を実施。この整備工場で検査するほか、「下界」の工場で実施することもあるそうです。整備に携わる人員は、普段は10人以下の小規模精鋭。しかし、トロリーバスが運休する冬期には、運転士の半数が共に車両整備に携わるといいます。なお、残りの半数は、トンネルなどの設備点検担当となります。

整備工場には、蓄電池の充電設備もあります。訪問時には、ちょうど1台がポールを伸ばして充電中でした
整備工場には、蓄電池の充電設備もあります。訪問時には、ちょうど1台がポールを伸ばして充電中でした

続いては指令室へ。関電トンネルトロリーバスの運行をリアルタイムに見守る指令室。安全監視のほか、乗客数に応じた配車や台数によって変わる停止位置の指示など、実際の運行を影からサポートする施設です。

指令室に設置の指令卓。関電トンネルトロリーバスは両端がループ構造となった配線で、トンネルの中間に行き違い用の信号場を設けるほか、工事用車両の出入り口も数か所にあります。指令盤の7セグメントディスプレイは、トロリーバスの「編成」の台数をカウントして表示するもの
指令室に設置の指令卓。関電トンネルトロリーバスは両端がループ構造となった配線で、トンネルの中間に行き違い用の信号場を設けるほか、工事用車両の出入り口も数か所にあります。指令盤の7セグメントディスプレイは、トロリーバスの「編成」の台数をカウントして表示するもの

関電トンネルトロリーバスでは、複数台を1編成とした運行形態を取っています。閉塞は、架線に設置してあるトロリーコンタクタを使用したチェックイン・チェックアウト方式の自動閉塞。また安全性のため、運行票(スタフ)も併用しています。このほか、関電トンネルでは工事用車両も通行するため、トロリーポールを持たない工事用車両用として、ループコイルを用いた保安装置も併設しています。

架線に設置してあるトロリーコンタクタ。トロリーポールがコンタクタを叩くことにより、編成の台数をカウントします
架線に設置してあるトロリーコンタクタ。トロリーポールがコンタクタを叩くことにより、編成の台数をカウントします
扇沢発の先頭車両と、黒部ダム発の最後尾車両が携行する運行票。写真は扇沢~黒部ダム間で有効の「運行票C」で、閑散期などで信号場での交換が無い時期に使用します
扇沢発の先頭車両と、黒部ダム発の最後尾車両が携行する運行票。写真は扇沢~黒部ダム間で有効の「運行票C」で、閑散期などで信号場での交換が無い時期に使用します
工事用車両のループコイルが埋め込まれている地点。ゼブラゾーンの路面に、速度違反取締装置でも使用されるループコイルが埋め込まれています
工事用車両のループコイルが埋め込まれている地点。ゼブラゾーンの路面に、速度違反取締装置でも使用されるループコイルが埋め込まれています

トロリーバスに必須の架線。関電トンネルトロリーバスでは、主にき電吊架式を採用。カーブ部分や黒部ダム駅では、離線防止のために剛体架線を使用しています。なお、架線があるのは扇沢~黒部ダム間の本線のみで、工事用道路や駅と整備工場の間には敷設されていません。トロリーバスが整備工場に入場する際には、蓄電池を使用して走行します。

トロリーバスの架線。吊架線とき電線を併用したき電吊架線方式です
トロリーバスの架線。吊架線とき電線を併用したき電吊架線方式です
カーブ部では剛体架線を使用。架線の変位を少なくし、離線を防止しています
カーブ部では剛体架線を使用。架線の変位を少なくし、離線を防止しています
架線の分岐部。「フロック」と呼ばれており、機械的で架線としては複雑な構造のため、特に曲線方向での通過時には細心の注意が必要とのこと。上のループコイルの写真でも、フロックの注意喚起標識が見られます
架線の分岐部。「フロック」と呼ばれており、機械的で架線としては複雑な構造のため、特に曲線方向での通過時には細心の注意が必要とのこと。上のループコイルの写真でも、フロックの注意喚起標識が見られます

いざ、関電トンネルへ

それでは、扇沢駅からトロリーバスに乗車して、関電トンネルへと向かいましょう。

アルペンルートの長野側の玄関口、扇沢駅。信濃大町駅や長野駅から路線バスが出ています
アルペンルートの長野側の玄関口、扇沢駅。信濃大町駅や長野駅から路線バスが出ています

いよいよ発車時刻。信号が青に変わり、発車メロディが鳴ると、駅長(信号取扱上の責任者)の合図をもとに、トロリーバスが次々とVVVFインバータの音を響かせて発車していきます。

信号を確認した駅長が、編成中の1台ずつに合図。合図を受けたトロリーバスは、クラクションを鳴らして発車していきます
信号を確認した駅長が、編成中の1台ずつに合図。合図を受けたトロリーバスは、クラクションを鳴らして発車していきます

「世界中のスケールと迫力」から始まる車内放送を聞くうちに、トロリーバスは関電トンネルへ。全長5.4キロメートルの関電トンネルは、黒部ダム建設の物資を運ぶために1956年から1958年にかけて建設されました。先述したように工事は難航を極め、特に破砕帯では突破に7か月を要しました。トロリーバスは破砕帯を難なく通過していきますが、途中にはその破砕帯を示す照明や掲示があります。

雪や土砂崩れによる運行障害を防止するためのスノーシェッドを抜け、関電トンネルへ
雪や土砂崩れによる運行障害を防止するためのスノーシェッドを抜け、関電トンネルへ
扇沢寄りの一部区間は、トロリーバス用に新規に掘られたトンネル。貫通当時のルートでは土砂崩れによる運行障害の可能性があるため、新たに掘りなおしたとのこと。旧ルートは工事用車両が使用しています
扇沢寄りの一部区間は、トロリーバス用に新規に掘られたトンネル。貫通当時のルートでは土砂崩れによる運行障害の可能性があるため、新たに掘りなおしたとのこと。旧ルートは工事用車両が使用しています
工事用ルートとの合流部分。左側のルートが、当初掘られたトンネルです
工事用ルートとの合流部分。左側のルートが、当初掘られたトンネルです
突破に7か月を要した破砕帯。青い照明や標識でその場所を教えてくれます
突破に7か月を要した破砕帯。青い照明や標識でその場所を教えてくれます

一直線のトンネルを進み、長野県と富山県の県境を越えると、トンネル貫通点付近の信号場に到着。「列車交換」がある場合、上下列車がこの位置ですれ違います。

貫通点にほど近い信号場。交換がある場合、通常は扇沢発の列車が先に進入します
貫通点にほど近い信号場。交換がある場合、通常は扇沢発の列車が先に進入します
黒部ダム発の列車が信号場に到着。後ろに車両が連なっているのがわかります
黒部ダム発の列車が信号場に到着。後ろに車両が連なっているのがわかります
列車交換をした場合、ここで扇沢発列車の先頭車両と黒部ダム発列車の最後尾車両の間で、運行票を交換します
列車交換をした場合、ここで扇沢発列車の先頭車両と黒部ダム発列車の最後尾車両の間で、運行票を交換します

信号場を出発したトロリーバスは、関電トンネルをさらに進み、扇沢駅からおよそ15分、トンネル内に設けられた黒部ダム駅に到着しました。黒部ダムの展望台へは、ここから220段の階段を登ります。

黒部ダム駅に到着。扇沢駅と異なり、トンネル内に設けられています
黒部ダム駅に到着。扇沢駅と異なり、トンネル内に設けられています
 

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