京浜急行電鉄は4月17日、新規事業の創出を目指す「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」第2期について、採択企業を決定したと発表しました。
KEIKYU ACCELERATOR PROGRAMは、ある企業と他の企業などが連携し、新規事業の創出を目指すオープンイノベーションという取り組みを展開するもの。京急がこれまで取り組んでいなかった新たな事業の開発により、京急沿線の価値向上や、京急グループが持つ交通サービスと、その他の事業や沿線地域をシームレスに連携することを目指しています。第1期は2017年10月に募集を開始し、187件の応募から7件を採択。うち4件の実証実験が2018年に取り組まれました。
第2期では、エアモビリティを手掛けるAirX、荷物預かりシェアリングサービスを展開するecbo、旅行特化型AIチャットボットサービスを手掛けるtripla、タクシー相乗りサービスを開発するNearMe、傘のシェアリングサービスを展開するNature Innovation Groupの5社が選定されました。
AirXは、普段は活用されていないヘリコプターや、ヘリコプターの離着陸に適している遊休地を活用する「航空機手配オンデマンドシステム」を展開している会社。同社は今回のアクセラレータプログラムにおいて、三浦半島の京急グループ施設内部に臨時ヘリポートを設置し、ヘリコプターによる都心と三浦半島の間の移動サービスや、三浦エリア内での移動、遊覧飛行を実施するとしています。都心から三浦エリアへただ運ぶだけでなく、京急グループが持つ他の交通手段との連携も考慮しています。
都心と三浦半島の間での移動サービスを提供するという点については、京急の鉄道事業と競合するのではないかという疑問が湧きます。この点についてAirX 代表取締役の手塚究さんは、「ヘリコプターの利用者と鉄道の利用者は層が異なります。むしろ、交通状況が悪い三浦半島へ、これまで足が向かなかった富裕層が訪れるようになるので、地域活性化に繋がります」と話していました。また、三浦半島内においても、風光明媚な景観を空から眺めることのできる遊覧飛行を提供することによって、半島そのものの魅力向上につなげることを目指しています。さらに将来的には、「空飛ぶクルマ」の実用化といった「空の移動革命」を見据え、空飛ぶクルマのような次世代航空機の実用化に向けた共同開発にも取り組む考えです。
タクシーの相乗りアプリ「nearMe.」を手掛けているNearMe。スマートフォンを利用して相乗り相手をマッチングすることで、最大で40%安くタクシーに乗車できるアプリサービスです。現在はこの個人間サービスを提供している同社ですが、今後はタクシー会社などと連携し、9人乗りの「シャトル」を運行予定。すでに空港乗合タクシーとして同様のサービスが提供されている地域もありますが、これをスマートフォンを活用して便利に利用可能とすることで、タクシーより安く、バスより便利なポジションでの価値を目指すといいます。
NearMeが今回のアクセラレータプログラムで提供するのは、このシャトルサービス。同社は最大9人をマッチングさせる最適化アルゴリズムを開発しており、これを活用して観光などの需要に応えることを目指しています。
このほか、京急グループの施設に荷物預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」を導入し、京急沿線での移動体験に革新をもたらすことを目指すecbo、京急グループの宿泊施設予約サイトにAIチャットボットサービスを提供するtripla、1回70円で傘を借りられるシェアリングサービス「アイカサ」を手掛けるNature Innovation Groupが、KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM第2期の採択企業に決定。これら5社は、4月から7月にかけて実証実験に取り組みます。そしてプログラム終了後の9月以降、京急との資本業務提携などの検討に入るということです。
京浜急行電鉄で新規事業企画室部長を務める沼田英治さんは、2018年11月の記者会見において、アクセラレータプログラムを展開する理由を「生産年齢人口の減少や高齢化の進行、労働力不足の深刻化など、事業上の課題に直面しているため」と説明。交通と不動産、流通などからなる従来型のビジネスが、限界を迎えていることを語っていました。
電車を走らせていれば事業として成り立つ、という時代が終わった今、鉄道会社としてだけでなく、地域全体の生き残りをかけた京急の取り組みが進められています。