平成元年(1989年)から同31年(2019年)まで、30年と4か月ほどの長さとなる平成。平成という一つの時代の間、鉄道にもさまざまな動向や変化がありました。
今回は鉄道駅について、その推移やトレンドを振り返ってみます。
駅数の変化
平成最初の延伸開業区間は、帝都高速度交通営団地下鉄(当時)半蔵門線の半蔵門~三越前間で、同線の駅が新たに4つ加わりました。開業日は1989年1月26日です。このうち、営団の駅としては初となる神保町駅が開業。鉄道会社別で駅名が重複しないという条件で言えば、この神保町駅が平成最初の新駅と言えます。
既存の駅の間に新たな駅が設けられたケースでは、同年3月11日に、九州エリアを中心に開業した20余りの駅が挙げられます。この年は、JR北海道で標津線、名寄本線、天北線、JR九州で宮田線が廃止になるなどしましたが、横浜新都市交通(当時)の金沢シーサイドライン、名古屋市営地下鉄桜通線の新規開業などもあり、年間の合計では20駅ほどの純増という形になりました。
以降、平成時代を通して集計した結果、新たに開業した駅数は1050を超え、廃止された駅の数は700台前半だったことがわかりました(*1)。なくなった駅が多い印象がありましたが、新駅の開業がそれを上回ったことになります。なお、改元の前後では駅の数に変化はなく、平成最終日、令和初日の駅数は9570余りの見込みです。
平成時代に誕生した駅・・・その名称の傾向など
1000を超える「平成新駅」のほかに、平成の間に駅名を変更したもの(300超)(*2)を加え、その名称の傾向などを調べてみました。わかったのは、カタカナを用いた駅が100余りと多かったこと、新設、改称を問わず、学校に関する名称を使った駅が50近く、公園がつく駅が40ほど、温泉がつく駅が30ほどとそれぞれ一定数に上ったことの2点です。
カタカナを含む駅名についての考察は、「『高輪ゲートウェイ』から考える、カタカナ表記を含む駅名のあれこれ」でも書きましたが、1989年以降に開業、または改称した分に限って改めて見ると、カナが2文字以上入る駅名全体のだいたい4分の3にあたる駅が平成時代に登場したことがわかりました。
背景としては、カタカナ表記の施設、地名が増えたこと、カナ主体の企業名を駅名に用いるケースが出てきたこと、カタカナの単語を駅名に採り入れるのが一般化してきたことなどが考えられます。
平成元年に登場したカナ駅(カタカナを2文字以上含む駅)を開設日順に並べると、三角線の石打ダム、秋田内陸縦貫鉄道の阿仁マタギ、横浜新都市交通(当時)の産業振興センター、参宮線の池の浦シーサイド、名古屋市営地下鉄桜通線の国際センター、長崎本線のバルーンさがとなります。これら6駅、いずれも新駅です。
駅名変更により、カナが含まれるようになったケースは、大井川鐵道のアプトいちしろ(旧川根市代)、長島ダム(旧大加島)の2駅が平成初出(1990年10月)です。
直近では、ゆりかもめの東京ビッグサイト(旧国際展示場正門)、東京国際クルーズターミナル(旧船の科学館)の2駅が3月16日に、広島電鉄宮島線の宮島ボートレース場(旧競艇場前)が4月1日に、駅名変更によりそれぞれカナ駅になりました。
4月20日に開業した常磐線の新駅「Jヴィレッジ」も堂々たるカナ駅。表記に「ヴ」が入る駅としても全国初というのもポイントです。平成時代最後の新駅でもあります。東日本大震災からの復興の象徴という点も含め、注目度、話題性の高い駅です。
次に、学校、教育施設関係の名称がつけられた駅について。平成時代にこれらの駅が増えた理由としては、学生や学校関係者の需要にこたえる傾向が強まったことが大きいと考えられます。住宅地や商業施設でも同様のことが言えますが、学校付近に駅を設けるのは、より確実な需要が見込めるという点で鉄道会社としてもメリットが大きいのでしょう。
既存の駅の間に新設された駅を順に挙げると、平成元年の九産大前(鹿児島本線)、京都精華大前(叡山電鉄)、平成2年の大学前(近江鉄道)、平成3年の大学前(松浦鉄道)、大阪教育大前(近鉄大阪線)となります。直近では、3月16日開業の糸島高校前(筑肥線)があり、全体的に九州エリアに多く見られます。
公園、温泉がつく駅
平成時代は、当地の象徴やスポットを駅名に明示することで、駅利用者を増やす、イメージアップにつなげるといった動向がそれまで以上に顕著で、その代表的な例が「公園」や「温泉」であることが駅数の増加に反映していると考えられます。
既設の駅名が変更された例を、年月の古い順から挙げていくと、吉都線の京町温泉(旧京町)、奥羽本線の大鰐温泉(旧大鰐)、かみのやま温泉(旧上ノ山)、長崎本線の吉野ヶ里公園(旧三田川)、札沼線のあいの里公園(旧釜谷臼)、大井川鐵道の川根温泉笹間渡(旧笹間渡)、名鉄西尾線の堀内公園(旧碧海堀内)、くま川鉄道の人吉温泉(旧人吉)、長崎電気軌道の平和公園(旧松山町)などがあり、直近では、学研都市線の寝屋川公園(旧東寝屋川)があります。京都丹後鉄道の夕日ヶ浦木津温泉は、運営主体が北近畿タンゴ鉄道からWILLER TRAINSに移行した際、木津温泉から変更された駅名ですが、北近畿タンゴ鉄道時代には、丹後木津から木津温泉に変えた経緯があります。また、1995年12月から1999年12月の間には、花輪線の湯瀬温泉、陸羽東線の中山平温泉、鳴子温泉、川渡温泉、瀬見温泉、赤倉温泉の6つの「温泉駅」が改名により登場。2000年代に入っても、温泉を駅名に追加する動きは続き、今なおホットです。
既存の駅の間に新設された例としては、志井公園(日田彦山線)を皮切りに、運動公園(わたらせ渓谷鐵道)、東山公園(山陰本線)、佐賀公園(土佐くろしお鉄道)など、温泉関係では、柿下温泉口(平成筑豊鉄道)、みなみ子宝温泉(長良川鉄道)、流山温泉(函館本線)などがあります。温泉がつく最新の駅は、北陸新幹線の黒部宇奈月温泉。新幹線の駅名で温泉が入っているのは、当駅が唯一です。
平成時代に新規開業した鉄道のうち、横浜シーサイドライン、大阪高速鉄道、ゆりかもめ、多摩都市モノレール、沖縄都市モノレール、名古屋臨海高速鉄道、愛知高速交通(リニモ)、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)では、沿線の公園の名称を採り入れた駅があります。リニモでは全9駅中、公園がつく駅は3つと多数派です。
空港アクセス駅も増
このほか、空港アクセス駅が増えたことも平成時代の駅の特徴の一つとして挙げられます。空港の設置とともにできた駅としては、関西空港駅(関西空港線、南海)、中部国際空港駅(名鉄)、神戸空港駅(神戸新交通)があり、既存の空港に直結する駅として新たに整備されたものとしては、成田空港駅(成田線、京成)、新千歳空港駅(千歳線)、那覇空港駅(沖縄都市モノレール)、仙台空港駅(仙台空港鉄道)などがあります。
羽田空港に関しては、空港の工事や拡張にあわせて、路線の延伸や駅の移設、新設が進みました。境線では、滑走路の延長に伴って既存駅(旧大篠津駅)を移設する形で、米子空港駅ができました。
令和時代最初の新駅は?
令和時代最初の新駅は、予定通り夏ごろに延伸区間が開業すれば、沖縄都市モノレールの石嶺、経塚、浦添前田、てだこ浦西の4駅ということになります。
開業日が決まっている駅では、相鉄・JR直通線の羽沢横浜国大駅(11月30日)が挙げられます。
次の時代には、どんな駅や駅名が出てくるのか、また、どんなトレンドが生まれるのか、楽しみにしたいと思います。
*1 この数字は、桃花台新交通のように平成の間に開業、廃止となった分を含み、新幹線開業に伴う経営分離などで第三セクターに移行した駅、イベント等で一時的に開設された駅、BRT(バス高速輸送システム)、トロリーバス、ケーブルカー、園内モノレールなどは除きました。また、同じ社局で同名の駅があるケースでは、延伸開業や路線廃止を問わず、カウントから外しました(例:おおさか東線の久宝寺、放出、鴫野、新大阪、三江線の三次、江津)。
*2 駅名表記が同一で、読み方が変わっただけの場合は除きます。使用する漢字や平仮名が変更になった場合は対象としました(例:会津檜原→会津桧原、あかじ→あかぢ)。