6月16日、京浜急行電鉄800形の引退記念企画として、同形式による特別貸切列車が品川~久里浜工場間で運転されました。
800形は、1978年にデビューした車両。地上専用車両として計132両が製造されました。この800形の特徴は、車両側面に4つの乗降用ドアを持つ4扉車として設計されたこと。先行して製造された700形と同様、ラッシュ時の乗降時間短縮を目的に、地下鉄直通対応車両である(旧)1000形よりも扉を増やした車両として製造されました。
また、右手ワンハンドルマスコンや界磁チョッパ制御、回生ブレーキといった新機軸を京急車では初めて導入。1979年には鉄道友の会が制定する「ローレル賞」を受賞しています。
先進的な部分が目立つ一方で、扉は全て1枚で構成される片開きであるほか、700形以前と同様に前照灯が1灯のみの配置など、従来の京急車の伝統を受け継ぐ、現在の視点ではレトロといえる部分も多数存在する車両です。愛称は「だるま」。赤色に塗られた車体と、車両前面の白色の組み合わせから名付けられたそうです。
2011年より廃車が始まった800形。汎用車両である新1000形に置き換えが進み数を減らす中で、2016年には登場当時の塗装を復刻した編成が登場しました。この復刻編成である8231~編成が800形最後の1本となり、今回の特別貸切列車に充当されました。
今回の特別貸切列車は、4月に発売された「さよなら800形記念乗車券」の購入特典として抽選され、50組100人が招待されました。ほとんどの参加者は京急沿線からの参加でしたが、中には神戸からの参加者も。また、列車には吉川正洋さん(ダーリンハニー)、岡安章介さん(ななめ45°)、南田裕介さん(ホリプロマネージャー)も同乗。車内にて記念撮影会やビンゴといったイベントが開催されました。
急行や快特などの優等運用に充当された経歴もあるものの、主たる活躍の場は普通列車だった800形。しかし今回の特別貸切列車は、9時2分に品川駅を出発した後は、信号現示による一時停止こそありましたが、乗務員交代のために金沢文庫駅に停車した以外、全ての駅を通過するダイヤで運転。営業運転時にはあまり機会のなかった高速運転で、通い慣れた京急線を北から南へと駆け抜けました。
ところでこの800形、乗務員からはどう思われていたのでしょうか。
かつて運転士として800形に乗務した経験のある京急の社員は、「旧1000形や700形のツーハンドルからワンハンドルに変わったため、操作がシンプルで扱いやすい車両」と説明してくれました。また、旧1000形などと異なり貫通路がないため、横方向の視界が広いことも印象的だったといいます。
性能面では、ブレーキを掛けた際の空転制御が優秀で、雨天時でもそれほど滑走距離が伸びない車両なのだそう。最新型のVVVFインバータ制御装置を搭載した車両よりも優秀だといい、京急の乗務員から信頼されていた車両だったことがうかがえます。
さて、特別貸切列車が会場の久里浜工場に到着した後は、南田さんら3人によるトークショーの時間。空港線に入線していた頃の思い出話や、金沢文庫駅行きを「文庫」と表示するような駅名を省略した方向幕の話題など、さまざまなトークが繰り広げられました。
トークショーの後は撮影会です。参加者全員による記念写真撮影の後、800形がさまざまな種別・行先表示を披露。定番ともいえる「普通・浦賀」から始まり、「急行・新逗子」「特急・羽田空港」など、末期には見られなくなっていた優等種別を次々と表示しました。
ラストは黒字幕に「蒲田←→穴守稲荷」の行先表示板を掲示。空港線が羽田空港の敷地内に乗り入れる直前、旧羽田空港駅が廃止されてから羽田駅(現在の天空橋駅)が開業するまでのわずかな間に見られた貴重な形態が再現されました。
この6月で41年間の活躍に終止符を打つこととなる800形、今後はどうなるのでしょうか。京急の担当者によると、800形が保存されるかは未定とのことです。一方で、池袋駅付近のとある商業施設には、800形の先頭部が保存されています。片開き4扉という特徴的な車両は営業線上から消えてしまいますが、「だるま」の愛称で親しまれた前頭部は、今後も変わらずその形態を残してくれそうです。