夏休みの自由研究に、人工知能(AI)搭載の案内ロボットのレポートはいかが?
JR東日本グループは5日、駅の施設や乗換などに関する利用客からの質問に対応できる案内AIシステムの実証実験を始めました。視野にあるのは、1年後となった2020年東京五輪・パラリンピック。今回の実験を通じてAIの精度を高めて本番に臨むため、子供たちを含めまずは多くの人たちに触れてもらいたい、と期待しています。
5日、品川駅に設置された「AIさくらさん」(ティファナ・ドットコム製)。画面の前に立つと、さくらさんが反応し、利用できるようになります。日本語と、訪日外国人の中で多数を占める英語、中国語(簡体字)、韓国語、タイ語、インドネシア語、ベトナム語、(ブラジルを含む)ポルトガル語の計8か国語に対応。駅構内のラーメン屋を探そうとすると、「東京豚骨ベース」か「蒙古タンメン」が選べ、どこにあるのか地図上に表示してくれます。
乗換案内機能については、「渋谷駅」などと指示すると、提携企業のヴァル研究所の「駅すぱあとWebサービス」と連携し、経路検索結果を表示。画面上に出てくるQRコードを読み取れば、データを自分のスマートフォン上で表示させることもできます。
この日は既に夏休みに入っている、ということもあり、多くの子供たちが実際に使ってみるなど、興味津々な様子を見せていました。
今回の実験は、「案内AIみんなで育てようプロジェクト(フェーズ2)」と呼び、JR東日本グループの11社と、AI関連機器メーカーなど14社の計25社が参加。AIさくらさんや、ロボホンやペッパーなどおなじみのロボットも含め、10種類の案内AIを投入し、東京駅、品川駅などの8駅30か所で11月10日まで実施します。 9月20日~11月2日にラグビーワールドカップ日本大会があり、来年7月24日~8月9日には東京五輪、8月25日~9月6日には東京パラリンピックが開催されることから、この時期が選ばれました。
この実験のフェーズ1は昨年12月7日~今年3月15日まで実施されましたが、今回はその際の反省が生かされています。
前回の課題の一つは、案内AIの認知度不足でした。
より多くの人たちに使ってもらうため、駅の利用客たちがしばしば構内の地図の前で迷っていることが多いことに着目。案内AIを地図の近くに置くなどの工夫をし、利用客の目に留まりやすくなるようにしました。
また、案内AIの音声認識機能については、画面に向けて「トイレはどこですか」などと大声で質問するのは恥ずかしい、などの理由から、利用を避けている人たちが少なくないことも分かりました。そのため、受話器を設置してそこに話しかけられる形式も新設。一方で、「他人の使った受話器は、衛生上の理由で使いたくない」という利用客もいるため、画面に向けて話しかけるタイプの案内AIも引き続き設置されています。
前回は、「品川駅から横浜駅に向かう方法を尋ねられたら、こう答えよう」などというように、各駅の駅員らが一つ一つの質問への回答を考えていました。しかしながら、これではほぼ無限に想定される質問に対応することは困難です。そのため、ヴァル研究所や、飲食店情報に詳しいリクルートライフスタイルの「ホットペッパーグルメ」などの外部情報サービスと連携することにしました。
これまで、利用客から駅員らに投げかけられる質問には「ロッカーはどこですか」などの簡単なものも結構な数あり、それによって忙殺されるケースもあり得ました。
こうした簡単な質問は必ずしも人間が対応する必要がなく、案内AIなどが答えられるのであれば、駅員は駅員でしか対応できないような利用客の複雑なニーズに対応する方に力を注ぐことができる、というメリットがあります。
ティファナ・ドットコムの横山洋太取締役は「人手不足をAIで何とかしたい」と話します。例えば、今はAIさくらさんのディスプレイ脇の受話器を使う形態を採っていますが、利用客が自分の携帯電話から質問できる形にすれば、より多くの利用客のニーズを満たすことができるのでは、と考えています。
利用客からの質問内容と、それに対する各案内AIの回答、それを聞いた利用客が目的を満たしたか、などのデータは後で確認できるため、「この言語の利用者数はこのくらいだった」「受話器を使うのと、画面に直接話しかけるのとでは、こちらの機能の方が多く使われた」などの傾向を分析し、AIの機能改善に活用することが可能です。
案内AIが適切な回答をできなくて、利用客が駅員らに相談してきたら、それらの情報も案内AIのメーカーに提供し、随時改善していく方針です。
そのため、JR東日本グループとしては、多くの人たちに利用してもらって多くのデータを蓄積することで、今後に向けて案内AIの対応能力を高めたい考えです。担当するジェイアール東日本商事、AI・ロボティクス推進部の大野誠一郎担当部長は「小学校高学年の自由研究に使っていただくなど、案内AIについて多くの方々に興味を持っていただければ」と話していました。